075(伏線)
帰り道に露店があった。アクセサリー屋かな?
「圭市君、寄ってこ」
「怪しい店だな。ぼったくられるよ」
「ちょっとだけ」
「仕方ないな〜」
「いらっしゃい」
インディアンの雑貨店か。露店商は魔女みたいな婆さんだ。アクセサリーの値段はどれも安い。
「もしかして、松本圭市様?」
日本語!? 翻訳ウェアラブル端末を介さず、日本語が聞こえる。外国人が話すから、違和感アリアリだ。
「何で俺の名前を? ……ああ、スーパーポーカーを観てたか」
「ええ、まあ。松本圭市様、潜在能力を上げるアクセサリーです。持っていってください」
「いくら? どうせならペアがいいな」
「タダでございます。ペアリングのアクセサリーなら」
「タダでいいの!?」
「上手な日本語ね〜。圭市君、貰っていこ」
キラキラと紫色に輝く石が付いてるシルバーリングだ。タダなら、めっけもんだな。
俺と弥生さんはリングを薬指に入れ、輝きを見る。
「本当にいいの?」
「いざという時は石を割ってください。グッドラック、カミカゼ」
露店商は店を畳み、去っていった。
「これも、ポーカー大会のお陰かな?」
「いざという時ってどんな時?」
「死にそうになったりとか? 俺にもよく解らん。帰ろう」
「うん」
俺はルクソールのエレベーターで弥生さんと別れ、6005号室に戻ってきた。カードキーを挿してドアを開ける。
「まっつぁん、お帰り」
「ただいま〜。つっかれた〜」
俺はお土産が入ったビニール袋を適当に置き、ベッドへダイブする。
「ふかふかだぜ〜」
「まっつぁん、明日は頼むよ」
「おお、任せろ。って何を?」
「ハウスキーパーへのチップ」
「下平、今まで払ってくれてたんだ。悪い悪い」
「まあ、ハンバーガー奢ってくれたりしたから、トントンだね」
俺はベッドの枕元にある透明なペン立てみたいなケースに、20ドル札を入れといた。
俺は飲み残しのワインボトルを手に取り、らっぱ飲みする。
「まっつぁん、ライコネン……ミキの事をどう思う?」
「ミキ・ライコネンはクールビューティーだからな〜。タイプではないよ」
「俺、ミキに告白する!」
「下平……酔ってんのか?」
「ちょっと酔ってる、アハハ」
「明日決行だ。明日はサーカスショーだから、隣の席に座れば、一発だよ」
「マジかよ!? まっつぁんがお膳立てしてくれるの?」
「出来るだけのことはするよ。寝る、おやすみ」




