074(砂漠の乾いた風)
まずい…………どうすれば?
「おい! 松本! 今の女は誰だ!? 生意気だぞ!」
遠藤…………遠藤にまで見付かるとは。これは天罰だな。
「大声出すなよ、不細工」
「てめえな……!」
「童貞かよ、お前は。あと2〜3年、生きてれば魔法使いになれるぞ」
「俺が会社を継いだら、真っ先にお前を首にしてやるからな」
「正当な理由なしにか?」
「理由は俺を侮辱した罰だ」
「童貞呼ばわりされて傷付いたんでちゅか〜? またパパに言い付けるんでちゅか〜?」
「お前いつか殺してやる!」
遠藤は半泣きでルクソールへ入って行った。
「カミカゼ先輩、容赦ありませんね」
「ミカも気を付けろよ」
「何にっ!?」
「遠藤のバカにだ」
俺はルクソールの6005号室へ戻る。下平が荷造りをしていた。
「もう帰る準備?」
「自由時間は今日で終わりだからね。ってか、まっつぁん、昨日はどこに泊まったの?」
「荒野のトレーラーハウスだよ」
「アハハ、なにそれ。マフィアに捕まったかと思ってメールを入れたんだけど」
「メール? 気付かなかった」
俺はウェアラブル端末を見ると、オフになってた。
オンにすると、皆から、メールや電話の着信履歴が数十件も入ってた。渡辺さんからも。皆ありがとう。
俺は弥生さんに電話を掛ける。――ピッ。
『もしもし、圭市君? 生きてる?』
「危うく、昇天するところだった」
『どこに行ってたの?』
弥生さんの声が震えてる。
「ちょっとディープなラスベガスを体験してたよ。ケガをしてる訳じゃないし、安心せい」
『心配したんだから!』
「今どこに居る?」
『5003号室だよ』
「お土産を買いに行こう」
『うん』
俺と弥生さんはルクソールのエントランスで待ち合わせして、近くの雑貨屋へ行く。
弥生さんは笑顔が弾けている。よっぽど、心配を掛けたんだろう。砂漠の乾いた風が心地好い。
俺は使用済みカードやダイスのアクセサリー、浮かれた観光客が買いそうな物を150ドル分買う。笹隼伯父さん、博子伯母さん、和事兄ちゃんのお土産。
弥生さんは230ドル分もお土産を買った。だが、予算内だろう。弥生さんも浮かれた観光客が買いそうな物を買ったようだ。




