048(無様)
シルビアを運転して明暗寺に帰る。直管かと思うくらいバカデカイ、エキゾーストノートだ。耳がイカれる。
車高が低い上にフルバケットシートのホールド性、乗り降りは一苦労だ。
明暗寺に着くと、見慣れない車が停まっていた。どうやら、警察車両のようだ。警察官がシルビアに近付いてくる。そして、運転席側のウインドウをノックされた。
俺はウインドウを開ける。
「松本さんですね? シートベルトは?」
俺は四点ハーネスベルトをさする。
「これが見えない?」
「あっ、ハーネス! 失礼しましたー!」
「それで用は何ですか?」
「十条警部補が話したいとの事です。境内に居ますので」
俺はシルビアを明暗寺の駐車場に停めて、本堂に行く。
グレーのコート着た、恰幅の良いちょび髭。十条警部補だ。
「やあ、圭市君」
「合同会議は終わりましたか?」
「ああ。シティでやったけどね」
「それで、他人を操る能力者は実在するんですか?」
「半々だ。状況からして間違いではないと思うが、警視庁のご意見番、二階堂警部にダメ出しされたよ。非現実的だって」
「頭が固いんですよ、その二階堂って人」
「圭市! 圭市は居るか!?」
突然、クズ(父親)の声が聞こえた。警察官が居るのに、接近禁止命令が出てるのに、よく来れたもんだ。
「よかった、圭市、良い話がある」
「また来たのか。酒乱のクズ」
「車を買い換えたようだな。売って3倍に増やしてやるぞ」
「クズ、よく見ろよ。十条警部補だ」
クズは固まってしまった。
「松本三四郎さん、圭市君に接近禁止命令が出てるのに何で来たんだい?」
「いや〜、元気かな〜と思って」
「両手を出して。確保するから」
クズは全力ダッシュしたが、すぐに足がもつれて転び、もう一人の警察官に取り押さえられた。
「放せー! 放せー!」
「松本三四郎さん、あなたは病気だ」
クズは後ろ手に手錠を嵌められる。一件落着。
「確保!」
「俺は病気じゃねえ!」
ここまで無様な父親がいるだろうか? 兄弟でも笹隼伯父さんとはえらい違いだ。情けない。




