027(キッス)
明暗寺を過ぎて道路から、左の階段を登って行くと拓けた場所があり、そこは街を見渡せる高台になっている。
俺と弥生さんは階段を登りきり、ベンチに座る。
「ここは何度来ても綺麗な夜景ね」
「100万ドルの夜景だからね。飯松アベニューは」
「圭市君、ありがと」
俺は阿吽の呼吸で理解した。弥生さんから遠藤を遠ざける作戦が成功したからだろう。一時的だけど。
「ドムに人柱になってもらって、てんやわんやだったよ」
「圭市君がまたパワハラを受けないか心配だな」
俺の手に弥生さんはソッと手を重ねる。
「弥生さん?」
こんな事は初めてだ。
「…………好き」
「えっ!?」
「幼馴染みを卒業しよ?」
「いいけど…………」
咄嗟の事だった。俺の頬に唇が触れた。そして、離れる。
「…………圭市君の気持ちは、ライク? ラブ?」
「解らない。急なことだから」
俺は頭がパンクしそうだ。弥生さんのことは好きだけど、ライク? ラブ? 幼馴染み? 恋人?
お互いにモジモジしてる。
「圭市君とは保育園から一緒だよね」
「そうだね。保育園から会社まで。でも飯松ウィステリア工業に長く勤める気はないよ」
「本当に探偵事務所を立ち上げたら、雇ってくれない?」
「弥生さんまでアンダードッグになることはない。バンドワゴンにしなよ」
「だからこそ、着いていくのよ」
「探偵事務所はバンドワゴンか、アハハ」
「圭市君は自信持っていいと思う」
――少しの間、2人で夜景を眺める。
「光は生命の肯定と否定だね」
「どういう意味?」
「街の光は人が生きてる証だ。しかし、空を見上げると星が輝いてる。恒星で生命は生きていけない。死の証だよ」
「圭市君は詩人ね、ウフフ」
「そろそろ帰ろう」
「うん」
俺と弥生さんはウェアラブル端末のライトを点けて階段を降りて、明暗寺の駐車場に行く。もう真っ暗だ。
「また来週」
「うん、またね」
「気を付けて帰ってね」
「大丈夫よ」
弥生さんはラパンに乗り、帰って行った。
俺の弥生さんへの気持ちは、ライクか? ラブか? …………自分でも解らん。とりあえず、寝よう。明日はドリフトレッスンだ。




