002(デブスのセクハラ)
今時、第2ボタンとは古風だな。学ランを着てる訳じゃないし。VRネットだし。
「悪い。やり方が判らない」
『松本先輩はシューティングゲームは強いのに。メニューをソートして』
下級生の1人はやれやれって感じで教えてくれる。
俺はメニューの第2ボタンをソートして探す。あった。
「ほら、第2ボタン」
『ありがとうございます』
ピコンと、第2ボタンを渡すと、下級生達は去っていった。
『私も貰おうかな〜』
同級生のドム(仮名)だ。デブスでデカイ態度をとる嫌なブス。アバターをいくら美人に着飾っても、顔写真を確認すると金縁眼鏡が脂肪に埋もれてる。ジェットストリームアタックは1人じゃ出来ないな、アハハ。
「アハハ」
『何、笑ってるのよ?』
しまったー! 心の声が漏れた。
「何でもない。減るもんじゃないし、欲しけりゃやるよ」
『貰ってやるんだからね。飯松ウィステリア工業に私も入るのよ』
俺は仕方なく、ドムに第2ボタンを渡す。
「ドムは勉強はできるもんね」
『ドムじゃない! 六道よう子よ!』
「そうだったな、去れ」
『おーい! まっつぁん、記念写真撮ろうぜ』
クラスメートの下平だ。良かった、ドムから解放される。
まっつぁんとは俺のニックネーム。松本だから、まっつぁん。
「今行く」
俺はクラスメートの男子で写真を撮る。アバターだけど、良い思い出になるだろう。
『おっほん、卒業生の諸君、整列しなさい。校長先生の有難いお話ですよ』
卒業生は渋々と整列する。意味はないに等しい。
『それでは、お話しましょうか――(自主規制)――』
俺達、卒業生は卒業証書をダウンロードされる。これで堂々と飯松ウィステリア工業に入社できるぜ。
――俺はクラスメートと同窓会までの別れを惜しみ、シティをログアウトする。
ここは明暗寺の本堂に繋がる長屋の一室、俺の部屋だ。
シティは専用スーツとヘッドマウントディスプレイを装着することで五感を刺激される。痛い思いをすれば、その箇所の痛点が神経を伝わり、脳は痛みと処理する。
俺は専用スーツをベッドに脱ぎ捨て、デニムとパーカーに着替える。
俺は本堂に行くと、お経が聴こえてきた。笹隼伯父さんが唱えている。
和事兄ちゃんはホウキで境内のごみ掃除をしてた。
「和事兄ちゃん、ちょっといい?」
「どうした、圭市、卒業式は終わったのか?」
「お陰様で飯松ウィステリア工業に入れそうだよ」
「良かったな」