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 飯か、腹が減ったな。俺はなんとか立ち上がり、キャスターが付いた点滴ラックを杖代わりにして、カーテンを開ける。個室か、良かった。


 俺はヨボヨボと歩き、個室から出る。やめてくれ……俺の個室は廊下の一番端だった。50メートルほどを5分かけて歩く。かなり衰えたな。10段くらいの台車に、病院食が並べられてるトレイ。


「一真圭市様ですね?」


 看護師に声をかけられる。死亡扱い……偽名か。


「腹が減った。俺の分はある?」

「はい、ご用意は出来てますよ」


 俺は【一真圭市】と書かれた名札が付いてるトレイを持ち、テーブルに座る。メニューはほぼ流動食だ。食えないよりマシか。


 味がしない……不味い……。


 一応、平らげて、トレイを元に戻す。


「将棋出来る? ……将棋出来る?」


 右手がブルンブルンと震えてる、オッサンに声をかけられた。アルコール依存症だな? “ホンモノ”は怖い。関わりたくない。


「将棋は出来ない。他を当たってくれ」


 本当はルールくらいは知ってるけど。


 俺はヨボヨボとまた歩き、個室に戻ろうとした時に、今度はナースに声をかけられる。


「圭市様、肩を貸しましょうか?」

「ああ、悪いね。頼むよ」


 可愛いナースだ。年は俺と変わらないだろう。左手に点滴ラック、右手にナースの肩を掴み、ヨボヨボと歩く。


「やっと目を覚ましましたね。奇跡ですよ。私は圭市様の髭そりと爪切りを担当してましたが、もう用はないですね」

「今までありがとね。名前は?」

園原街子(そのはらまちこ)です。何か欲しい物があれば、何でも言って下さいね」

「ビールが飲みたいな」

「精神病棟でアルコールなんてダメです。アルコール依存症で苦しんでる人がたくさん居るんですよ?」

「そりゃそだね、アハハ。ポテチの海苔塩が食べたい」


 俺は街子さんに支えられ、個室まで戻ってきた。


「売店でポテトチップスを買ってきますね」

「支払いは?」

「院長の一真アルト様が立て替えてくれますよ。では行ってきます」


 至れり尽くせりだな。閉鎖病棟というのが引っ掛かるが。


 俺はベッドに横たわり、マインド・ポゼッションを試みる。


「マインド〜! ポゼッショ〜ン!」


 ダメだ、幽体が出ない。


「ミリオ〜ン! ダラ〜ズ!」


 ダメだ、幽体が出ない。

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