015(アイズ)
俺は明暗寺に帰る。伯父さんもデイズで帰って来たところだ。ドライバーは和事兄ちゃんか。
俺は明暗寺の駐車場にGTRを停めて降りる。
「圭市、早かったな」
「なんかよく分からないけど、初日は午前中だけみたい」
「圭市君、お昼ご飯まだでしょ?」
「会社の人とランチして帰って来た」
「そうか」
和事兄ちゃんに遠藤のことを言うか!? どうする? ……ダメだ、和事兄ちゃんの顔に泥を塗ることになる。
「…………」
「圭市、どうかした?」
「いや、何でもないよ。母さんがシティに繋いでないか、確認しなきゃ」
「叔母さんはやはり、外国に居るのではないか? 今の時代はシティにログインしなければ、マトモに生活出来ない」
「日本のシティと互換性が低い、アメリカのVR総合コミュニティ、“アイズ”に居るかもね」
「飯松ウィステリア工業は数年に一度だけ、アメリカに慰安旅行をするらしいな。遠藤から聞いたことがある」
「えっ、遠藤!?」
「何を驚いてる?」
「何でもない。さっさと境内に行こうよ」
俺は部屋に戻り、ラフなジャケットを脱ぎ、ベッドに投げ捨てる。さて、シティにログインするか。
俺は専用スーツに着替えて、ヘッドマウントディスプレイを被る。
『4月5日、ようこそ、シティへ。飯松ウィステリア工業の松本圭市様』
「スィフル、母さんの足跡は?」
『10年間、確認されてません』
「アイズの情報は見れる?」
『アメリカの個人情報は閲覧不可です』
「やっぱりね」
このやり取りは何回目だろう? 1日1回、365日、10年間。
『駒川弥生様と下平明人様からボイスチャットが来ました。どうされますか?』
「2人同時に?」
『いえ、個別です』
「じゃあ、下平から繋いで」
『かしこまりました』
ピッ。下平とボイスチャットを始める。
『まっつぁん、よかった、ログインしてて』
「どうした? 下平。急用か?」
『ただの世間話だよ』
「何だよ、ビビらせやがって」
俺は、下平から飯松ウィステリア工業について、色々教えてもらう。
売店の使い方、駐車場の停めていい所、噂の地下空間まで。下平もB棟に配属され、パイプラインに就いたようだ。俺が配属された、多軸NC旋盤ラインから近い。
『じゃあ、一通り教えたから。また明日ね』
「ありがとね。知らないことだらけで助かった。また明日な」
ピッ。ボイスチャットを終える。
『圭市様、駒川弥生様にお繋ぎしますか?』
「頼む」




