148(極楽浄土)
俺は気が付くと、お花畑に居た。心地いい……ずっとこのままで。お花畑には蝶が舞ってる。青空に香りの良い花……ずっとこのままで。
「圭市! こんな所で何をやってるの?」
振り返ると、ゆうこさんだ。幽霊って何で後ろから現れるんだろ? マストか、アハハ…………。今や俺も幽霊。
「ゆうこさん、心地いいね、ここ」
「何バカな事を言ってるの! ここは地獄の門前よ。早く極楽まで来て」
それでも、ここに永遠に居たい。
「後、5分」
「バカ!」
俺はゆうこさんに腕を掴まれ、無理やり空を舞う。
「極楽浄土はもっと心地いい?」
「圭市はまだ死んでないの。ディジスプを潰すんでしょ?」
「もういい……疲れたよ。母さんの無事も確認出来たし。ディジスプはミラが継ぐよ」
「あの子の年では傀儡にされてしまうわ。それに桂竜胆は生きている。弥生を守らないの?」
「……弥生さん!? 弥生さんはどうなった?」
「お花畑に長く居ると、記憶がなくなってくの」
俺とゆうこさんは雲の上を飛ぶ。心地よさがなくなった。目の先には雷雨が降っているのか雲行きが怪しい。本当に極楽浄土か?
「ゆうこさん、大丈夫?」
「三途の川に連れてくよ」
「船賃要るよね」
「六文銭? 飛んでいけばタダだよ。圭市だけに許された特別な条件」
俺とゆうこさんは雨雲で暗がりな川の岸に降り立つ。幾つもの木船が往き来していた。
「ここが三途の川か」
「ここからは、圭市ひとりで行って。川を渡ってる間は絶対に振り向いちゃダメだからね」
「分かった。色々ありがとう、ゆうこさん」
「ずっと……あの世で見守ってるからね。さあ、行きなさい!」
俺は対岸に向かって飛ぶ。振り返らない……振り返らない……。
俺は我慢して対岸に降り立った瞬間に肉体を感じた。寝てる。目を閉じてる。息をしてる!
俺は目を開ける。眩しい。白い天井に白いカーテン……病室か? 脇に誰か座っている。
「誰か来てくれ。対象が目を覚ました」
「こっ…………ここは…………」
俺は声を絞り出す。
「圭市君、私だ、一真アルトだ。ここは私が経営する精神病院の閉鎖病棟だよ」
「俺は……何日眠っていた?」
この体力の落ちよう、長いこと気絶していたのだろう。
「約1年間だよ」




