136(束になっても敵わない)
「母さん、ウィルスを焼却してしまおう」
「吉田に目を付けられてる。簡単には」
「この前に乗り移ったジジイか」
「圭市、そろそろ。前回は誤魔化せたけど、今回は……」
「雨宮ミコに乗り移られたとかなんとか誤魔化して。必ず助けにくる」
俺は雨宮という女性研究員から幽体を抜き、上空に行く。
高度3万メートルくらいまで上がると、日本の中部地方が台風に呑み込まれていた。参ったな。
すると、俺の幽体の頭から線が出て、飯松市の方へ伸びていく。なんだこれ?
俺はいきなり引っ張られるように、幽体が線を辿って飛ぶ。俺の力じゃない!?
ゆうこさんだ。ゆうこさんが引っ張ってた。俺は明暗寺の墓地に着く。
「ありがとう。ゆうこさん」
「圭市、思い出したよ。私はディジスプの生物兵器雛型」
「強力な霊能力があるんでしょ?」
「まだ全部は思い出せないけどね」
「ディジスプを潰したい」
「出来るだけ協力するわ。東条英機はディジスプを後世に残すか迷っていた」
「国を挙げて隠蔽したわけだ。ゆうこさんは戦争で亡くなったの?」
「分からない。結核を患っていたのは確か」
「病死かな?」
「美人薄命ってよく言うでしょ」
「ゆうこばあちゃんのDNAはちゃんと引き継がれて、俺みたいなモテ男が産まれた」
「ばあちゃん? カッチーン」
「あっ、いや、違うんだ。ゆうこさん」
母さんは第2世代から第4世代の生物兵器が束になっても敵わないと言っていた。ゆうこさんを怒らせてはいけない。
「さあ、明暗寺に帰りなさい」
「ああ。色々ありがとう。またね」
ゆうこさんは墓地の奥へ消えていった。
俺は部屋に戻り、自分の体に幽体を合わせる。なかなか起き上がれない。苦しい。
15分くらい格闘してなんとか起き上がる。
「あっ、圭市君、お帰り」
「色々大変だった……あれ? ミラは?」
「隣の部屋だよ。圭市君が偵察してる間に、ウェアラブル端末を使っていいか聞かれてさ」
「使ってもいいって伝えて。腹が減った」
「待って! 今夜は渡辺さんのラーメンを食べなきゃ」
「ああ、そうだったな。今は16時……今から行っちゃう?」




