010(仕事始め)
多軸NC旋盤ラインには2人の男が作業していた。1人は見たことある。渡辺さんだったかな?
切削油の独特の匂いに、ガタンガタンと機械が動く音、仕事が始まってる。なんか落ち着いてきたような、更に緊張したような、変な気分だ。
小宮山さんは2人の肩を叩く。
「遠藤君、渡辺君、新人を連れてきたよ。松本圭市君だ」
遠藤? まさか……!
「やあ、圭市君」
「渡辺さん、遠藤さん、宜しくお願いします」
「松本って和事の従弟か。宜しくな」
「じゃあ、松本君、頑張ってね」
小宮山さんは行ってしまった。
遠藤って人の評判は悪いけど、マトモそうだな。
「早速、働いてもらおうか。遠藤、ちょっと軍手を持ってきて」
「あいよ〜」
遠藤さんは軍手を取りに行ったようだ。
「渡辺さん、飯松ウィステリア工業の御曹司をあごで使うなんて……」
「俺と遠藤は同期なんだ。それに今は手が離せないし」
渡辺さんは機械に併設された台でデジタルノギスを使い、部品を検査していた。遠藤さんも分かってるんだろう、良いコンビネーションだ。
遠藤さんが戻ってきて、俺に軍手をパスする。真新しい普通の軍手だ。俺はそれを手にはめる。遠藤さんはそのまま機械の列の奥に行った。
「渡辺さん、何をすればいいですか?」
「とりあえず、奥の4台の機械のレールに鋼材を並べて。ルートボーイの上のコンテナに材料が入ってるから」
「分かりました」
「今日の仕事は午前中で終わりだ。現場の空気を感じるだけでいい。圭市君、頼んだよ」
「呼び捨てでいいですよ」
「危険を感じたら、非常停止ボタンを押してね」
「赤色のボタンですよね。分かりました」
俺は言われた通り、材料をレールに並べる。六角柱で長さ10センチメートル、幅は4センチメートルくらいだ。その材料を機械のアームが垂直に持ち上げ、加工室へ持っていき、削る。
ガラス越しに中を覗くが、白濁とした切削油でよく見えない。
俺は他の機械にも材料を供給する。すると、コンテナの中に六角柱じゃない、円柱の材料が1つ混じってた。これはまずいな。
俺はそれを持ち、渡辺さんのところへ行く。
「渡辺さん、円柱の材料が混じってましたよ」
「マジか!? よく見付けてくれたね。誤って加工しようものなら機械がぶっ壊れる。ありがと」