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その五

「カメリア…!!

ああ、【縁付き】だったなんて…考えもしなかったよ」


私とカメリアは、お父様の寝室にいる。


少しやつれたように見えるお父様は、カメリアを抱いて涙をぽろぽろこぼしていて、とりあえず魔力なしで生まれてきたことがお父様のせいではないと伝えられたようでよかった。


「ほら、マリー。

しばらく寝込んでいたのだから、まだ無理は禁物よ」


ベッドの端に腰掛けたお母様は心底心配そうな顔で、お父様の細い肩を抱いた。

美しい夫婦と、両親に似て可愛らしい赤子。

その姿は、とても理想的な家族に見えた。


「そうだね、でもその前に…ほら、アイリスもおいで。

ごめんね、お父様が弱いせいで寂しい思いをさせたね」


「…」


お父様は私に微笑みかけ、すっかり細くなった腕を差し出した。


でも、私は…その腕に触れることはまだ出来ない。


「アイリス…?」


「おとうさま。

あいりすは、あすおかあさまと…おうとのほんていにうつります」


濡れた青い瞳が驚きに大きく見開かれるのを眺めながら、どうか泣かないでと祈る代わりに、私は笑った。


数刻前、私が出した答えは結論から言うと正解だった。


満足そうに笑ったお母様は、私を試したことを謝ったあとすぐにお父様の寝室に行こうと言ったが、私が待ったをかけた。


そして、アイリスも【縁付き】だということは黙っていて欲しい、とお願いした。


お母様は、最初私のお願いに対して納得出来ないようだったが、最終的には渋々了承してくれた。


ただし、次期当主としての教育を早めること、それからもう一つを達成することを交換条件として私は了承し、その始めが明日からの本邸暮らしというわけだ。


教育を早めることに関しては、私も望んでいたことだからいいとして、二つ目の条件は現代日本人の記憶がある私にとってはなかなか難しいのではと思ってしまうが…やるしかないだろう。


その条件については…追々わかるだろうからひとまず置いておくとして、お父様は私の祈りも虚しくせっかく止まっていた涙が再び溢れそうになっていた。


「どうして、カメリア…お父様のことが嫌いになったから?」


さめざめと泣くお父様を前に、どう説明しよう…と悩んでいるとお母様がすかさず助け舟を出してくれた。


「落ち着いて、マリー。

戦争が落ち着いた今、私もそろそろ休暇が終わるし王都の本邸に戻らなくてはいけないの。

だから、アイリスに外の世界を見せるためにも今回連れて行くことにしたのよ。


…それにアイリスは、アイシア家の次期当主よ。

私も生まれたのはこの家だけど、物心つく頃には本邸に住んでいて、幼い頃から母に厳しく鍛えられたものよ。

まだ2歳だからと言っていられる立場ではないし、この子は賢い子だから…きちんと話して、本人もわかってくれたの」


「おとうさま。

わたしも、おとうさまやかめりあとはなれるのはさびしいです。

でも、わたしがりっぱなとうしゅになることでかぞくをまもれるなら、わたしはそうなりたいのです。


そのためのべんきょうやたんれんは、おそいことはあってもはやいことはないとおもったので、わたしはほんていへいきます」


お母様と私の言葉を、泣きながら聞いていたお父様は、前に差し出していた手で目元を拭って顔をあげた。


「では、お父様はカメリアと待っているよ。

アイリスが辛い時や、苦しい時に、いつでも戻って来られるようにね。


王都は、こことは違っていろんな人間がいて、きっと良いことも悪いことも、危ないこともある。

でも、アイリスにはお父様もカメリアも、ここの皆もいるからね。

たくさん学んできなさい」


「はい…おとうさま、わたしはがんばります。

おとうさまもかめりあも、かならずげんきでいてください」


そして、翌日の早朝。


私はお母様と共に、生まれてから2年過ごした屋敷を発った。

不安と寂しさと、それを上回るまだ見ぬ世界への期待を胸に。


ちなみにカメリアは最初から最後まで一緒に行くとうるさかったので割愛。

なんとなく、早いですがここで一区切りです。

カメリアは当分出てきません。


次から長い王都編に突入です。

できればまた一週間後…あるいは二週間後に。

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