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その四

眼前で歩みに合わせて揺れるワインレッドの美しい巻き毛をぼんやり眺めながら、そういえば…と束の間の現実逃避を試みる。


私が生まれてから住んでいるこの屋敷、実は本邸ではなかったりする。

前にも言ったがこの国で武闘派としてまあまあ上の方の貴族であるアイシア家だが、当然所有する屋敷は一つではない。

そして武闘派貴族と一口に言ってもおおまかに2種類に分かれ、それによって本邸をどこに置いているかが決まる。

まあ、簡単に言うと領地持ちかそうでないかの違いだ。


ちなみにアイシア家は後者にあたり、これまでずっと歴代の当主は王直属の騎士団か王都守護騎士団、もしくは近衛騎士団に属し、大体は各騎士団団長に任命されてきた。

しかし若干の実力主義であるこの国では、王と宰相を除いて団長など各団体の長にあたる役職に関しては世襲制ではなく、実力や実績を見て任命される。

これを聞くだけで次期当主と目される私が焦っているのもわかると思うが。

極め付けは、現在の近衛騎士団の団長がローゼ・アイシア…つまりお母様であることだろう。


先にもさらりと説明したがそもそもの発端は私が生まれた年に起こった戦争で、そのどさくさに紛れて城に曲者が侵入した際、前近衛騎士団団長が利き腕を負傷し、老年であったこともあり引退を表明。


後任を誰にするかという話になった時、当時王直属の騎士団に所属していて、偶然派遣されたその時の戦争で大きな功績をあげていたお母様が適任ということで、功績に対する褒美として近衛騎士団団長に任命されたそうだ。

まあ、武闘派として名を馳せてきたアイシア家の当主であり、さらに歴代の中でも最強と噂されていたそうだから、王の近くに置くいい大義名分になったといったところだったのだろう。

全くもって荷も気も重くなる話だ…優秀すぎる親を持つのも困りものである。


という訳で少し話はそれたが、つまり我が家は生粋の宮中貴族であるというわけだ。

説明していても頭がこんがらかりそうだ…貴族ってのはなんてややこしいのだろう。


ちなみに団長職を受け継ぐことは出来ないが、次期当主である子女もしくは子息は幼い頃より英才教育を受けたのち成人すると大体が親の所属する場所かそれに関連した所に最初は下っ端として入り、上司や親から現場で鍛えられることとなり…すると余程のことがない限り上の方のポストに代々収まるというわけだ。

こんな制度があっても、さすがにトップに就くのはなかなか大変だと思うのだが…。


しかし、よく考えなくても宮中貴族ってすごく不安定だな…万が一跡取りが出世に失敗すれば、その代の家はどれだけの名家であろうがその立場に甘んじるしかないのだから。

そう思えば武闘派宮中貴族なのに上から数えた方が早い我が家はすごい。

歴々の当主たちの努力の成果だな。


さて…私が次期当主としてアイシア家の歴史に名を刻むことが出来るか、さらに無事貴族の娘としてこの異世界で生きていけるかどうかは…。


「どうぞ、アイリス、カメリア。

お母様のお部屋でゆっくり聞きましょう…貴女達の、全てをね」


これからの私にかかっている。


努めてゆっくりと自然に呼吸をし、吸って、熱を排出するイメージで吐いてを繰り返す。

前世でも、試合や面接など大一番の時にしていた勝負のスイッチを入れるためのルーティンだ。

なんだか懐かしい…感覚は研ぎ澄まされて集中が高まっていくのに、頭はどんどん冷えて冴え渡る、この感じ。


堂々と部屋に踏み入り、子供らしさは皆無であろう…凪いだ目でお母様の目を真っ直ぐに見つめて、私は笑った。


これまでこちらの反応を楽しんでいたお母様は、目をすがめたがそれは一瞬で、すぐに挑戦的な笑顔を作って言い放った。


「さあどうぞ、お話しなさい」


「ええ、そうさせていただきましょう」


さて、これがこの世界で最初の大一番だな。


お母様の反応は、つばきの情報を得た後では違和感が大きい…ということは、可能性としてはつばきの情報が間違っているか、お母様個人の見解の違いだろうか。

仮に、ある意味異端な知識を持つ縁【縁付き】を排斥すべき派閥が存在し、お母様がそれに属しているとすればほぼなす術はないが…まあ、そんな理由なら部屋であの言葉を聞かれ、すぐ後に遭遇した時点でアウトだろう。

わざわざ黒に近い容疑者から場所を移してまで話を聞く意味がわからない。

まあ、こちらが子供ということで、思い違いという可能性を考慮したのかもしれないが。


考えてもわからないな。

そもそも判断材料が少な過ぎるのだから仕方ない。

というか、私も少なからず冷静さを欠いていたな…つばきの言葉を聞いて、なんの策もなしに即行動しようとするなんて。


反省は後にするとして、そろそろ無言が辛いし話を進めよう。


「えー…。

まずは、じこしょうかいをさせてください。

わたしのなまえは、かさいあやめ…ただしくはぜんせでのなまえですが。

そして、このかめりあはわたしのぜんせでのいもうと、かさいつばきです。

つまり、わたしたちふたりはこのせかいでいうところの【えんつき】ということです」


「へえ…【縁付き】なんて、どこで知ったの?

うちの書庫には【縁付き】に関する書物はなかったはずよ」


「つばきは、こちらでかくせいするまえ、かみとなのるものにあっており…【えんつき】についてもそのものからきいたそうです。

ちなみに、このこがまりょくをもたずにうまれてきたのも、のぞみとひきかえにしたけっかなのです」


「その望み、とはなんなの?」


「………わたしと、ふたたびしまいとなることです」


「…そう」


若干呆れた目をされた気がするが、断じて私が神に望んだわけではない。


「…まあいいわ。

それで?

貴方達は、どんな縁を持っているのかしら」


「えん…?」


なんだろう、記憶のことか?


「どんなきおくをもっているか、ということですか?」


「ええ、まあそういうことだけど…具体的に言うならこの世界にとって有益な、という意味ね」


「ゆうえき…」


…困ったな。

この世界のことをきちんと知りもしないのに、何が有益かなんてわかるわけがない。


いや、待て。


「それをこたえるまえに、わたしはあなたにかくにんしなくてはいけないことがあります」


「あら、何かしら?」


こちらを見る目に、先ほどまでと比べると明らかにいたずらっぽい色が混ざっている気がする。

一か八か…かけてみるか。


「あなたは、わたしたちのみかたですか?」


努めて可愛らしく見えるであろう笑顔を作り、小首をかしげてみせる。


「…それは、【縁付き】としての貴方たち、という意味かしら」


…少々直接的過ぎたか。

いや、これが一番正解に近いはずだ。


これが間違いなら、お母様がわざわざ敵対するような態度をとるなんて私には他にもう考えられない。

とりあえず、ダメならダメであとは成人するまで保護だけでもしてもらえるよう、元ジャパニーズらしく土下座でも披露するしかない。


「いいえ。

【えんつき】として…というところはかわりありませんが、かさいあやめとかさいつばきの、ではなく、あいりすとかめりあがそうであっても、といういみです。


わたしがすいそくするに、おかあさまがしりたいのは、わたしたちがあいりすとかめりあのかわをぁぶったかさいあやめとつばきなのか、それともかさいあやめとつばきのきおくをもってうまれただけのあいりすとかめりあなのか…ということですよね?


ならばこたえはこうしゃです。

わたしもかめりあもあかんぼうのときからぜんせのきおくをもっているので、そちらのせいかくにひっぱられてはいますが、あくまでもわたちたちはおかあさまとおとうさまのことを、ほんとうのかぞくいがいにおもったことはありません。


そうでなければ、おとうさまをはげますためだけに【えんつき】であることをあかすなんてしません。

いくら【えんつき】はえんぎがいいとされていようとも、じぶんのこどもがべつじんのきおくとせいかくをもっているなんて…きみがわるいでしょう?」




読んでいただきありがとうございます。

仕事をしながらコツコツ執筆していこうと思っていますので、毎週火曜日更新できるように頑張ります。


これからもアイリスをよろしくお願いします。

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