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その三

「…そんなこと、できるわけないだろう。

いくらまほうがそんざいするとはいえ、ぜんせのきおくをもったままてんせいするなんてことがたびたびあるってわけでもないだろう?

まちがいなく、さいあくしょぶんされるかよくてもすてられるぞ」


そんなことあってたまるか。


そんな私の考えをあざ笑うかのように、つばきはその前世とは系統の違う可愛らしさを持つ顔で、見覚えのある悪そうな笑顔をみせた。


「まさか…」


『そのまさかだよ〜ん。

とは言っても、さすがに頻繁にあるわけではないみたいだけどね。

せいぜいが、20年に1人くらい?

まあそれも神様の力じゃそれが限界ってだけらしいけど。

でもでも、なんと!

私たちみたいな前世の記憶を持った転生者は、この世界では【縁付き】って呼ばれて、縁起がいいってされてるんだって〜。

これ聞けば、お父さんも元気になると思わない?』


「なるほど…たしかにそれなら、おとうさまももちなおせるかもしれないな」


もしや、さっきのお母様の反応的に勘付かれて…いや、考えすぎか?

それよりも、そうと分かれば早くお父様にこのことを伝えて差し上げねば。


ひとまずつばきを落とさないようにしっかりと抱き、お父様の部屋に向かうために廊下に出た…ところでにっこり笑顔のお母様に出くわした。

わあ…壁にもたれているだけなのに、すごく様になっているな。

すごく嫌な予感がするのは気のせいだと思いたいが、もしかしなくても聞かれていたな。


「アイリス?カメリアとのお話しは終わったのかしら?」


「…はい。

あの…おかあさま?

もしかして、きいておられましたか?」


「ふふ…さて、どうかしら。

少なくとも、わたしにはあなたの独り言しか聞こえなかったわね。

そう、例えば…」


一旦言葉を切り、お母様は意味深に笑った。

そして、その美しい唇が情けなくもわずかに震える私の耳に寄せられた。


「『ぜんせのきおくをもったままてんせいするなんてことがたびたびあるってわけでもないだろう?

…とか、ね?」


『…わ〜、話す手間が省けたね!!ヤッター』


そう言うわりに背中びっしょりだぞ。

いや、私の手汗か?


「あ…えっと…あの、」


無意識にじりじりと後ずさるが、すぐに今しがた出た部屋のドアが行く手をはばんだ。

横移動を試みるも、まるで王子様のように片膝をついてかがんだお母様の腕によって逃げ場は失われた。


『きゃー壁ドンだー』


…お前は少し黙っていろ。


いや待て、何を狼狽えることがあるんだ。

どちらにせよお父様に話そうとしていたことなんだから、お母様に知られたって困ることじゃないはずだ。

それにこの世界では、前世の記憶を持った転生者は縁起がいいと言われているからには、責められる可能性は低いはず…。

そのはず…なのにどうして、お母様はこんなプレッシャーを放ってくるんだ?


「…おかあさま」


間近にある銀色の瞳を真っ直ぐ見据えた。

笑顔なのにそこだけ笑っていない目は、いつもの優しいお母様とは別人のようだ。


「なあに?アイリス」


問い返す言葉も、どこか冷たさが感じられて、血の気がひいていく…が、私は目をそらすわけにはいかない。

前世でも、何度か感じたこの違和感。

なんだったかと考えて、気付いたのだ。


「…おはなしが、あります。

かめりあと、わたしじしんのことです」


私は、試されていると。

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