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その二

場所は変わって、お母様の書斎。

すすめられたソファに素早く腰を落ち着けると、じっとお母様の目を見る。


「そうね…私はマリーと違って説明が得意じゃないから、何から話せばいいのか…。

まず、アイリスは魔法のことを知ってるかしら?」


魔法…?

それはまるっきり予想外だった。

当然知らないので、素直に首を横に振る。


「そうよね、アイリスはここから出たことがないから。

こんなことを聞いたのはマリーが閉じこもってしまっているのが、まさにその魔法が関係しているからよ」


そこからのお母様の話をまとめると、こうだ。


この世界には、魔法が存在する。

大昔には、神の力を拝借して行う神聖な現象とされていたが、研究が進んだ現在では否定されている。

おおまかな原理としては起こしたい現象のイメージを呪文により喚起し、そのイメージを魔力が形にする…それが魔法だ。

引き起こすことができる現象は、本人のイメージ力と保有魔力による。

どちらかが欠如すると魔法は使えないということだ。

しかし、想像力は後天的に育てることができる。

それこそそれは、成長過程で育てていくものでもあるからだ。

だが魔力は、ある程度生まれた時に限界が決まっているものらしい。

もちろん鍛えることで伸びるが、それは1から100になるだけであって100を越えて120になることはない。

つまり、100が限りなく0に近いとしたら…それ以上魔力が伸びることはないのだ。


これを聞いて、なんとなく話が見えてしまった。


「もしかして…」


お母様の腕に抱かれる妹を見つめる。


「かめりあには、うまれつきまりょくがないのですか」


「本当に賢い子ね。

そう…カメリアは、生まれてすぐ行う魔力測定で、魔力量が0だったの」


そう言うお母様の深刻そうな顔を見て、深刻さはいまいち分かっていないくせになぜか冷や汗をかく。


「それが、まちがいということはないのですか?」


「ええ、我が家には、現時点で最高レベルの測定具があるの。

悲しいことに、おおよその魔力限界値までわかってしまうような…ね」


語尾を濁して俯くことから察するに、おそらく一縷の望みをかけて限界値の測定までしたのだろう。

…結果は、望むものではなかったようだが。


「こんなの…聞いたこともない。

魔力が0の人間なんて、この国の魔術師長ですら見たことも聞いたこともない大事件なの」


そこで一旦言葉を切って、痛ましげに目を伏せた。


「…絶対に、お父様のせいではない。仮にそうだとするなら、私たち夫婦の子供だもの。

責任はわたしにもあるわ。

けれど…お父様は自分を責めてしまったの。


…どうして…、ああ、カメリア…!」


泣きそうな顔で、カメリアを抱きしめた。

まるで、死んでしまうかのような…。


「…まりょくがないと、わたしたちはいきていけないのですか?」


「いいえ、死ぬことはないそうよ。

魔力は生命活動に直接関係してはいないらしいから…。

けれど、魔力はあることが当たり前で、外の世界は魔力を原動力にするもので溢れているわ。

この屋敷はね、初代の魔具がない戦場や緊急時の避難先でも生活できるようにという意向により、建設されているの。だから魔具が一切無いのよ」


なるほど…少し違うが、魔力は前世における電気のようなもので、ライフラインの一部ということか。

となると、カメリアにとって外の世界はかなり生きづらいだろう。


その場の空気が重く沈んでいく…。


「あわっ、あうあっ」


沈黙を破ったのは、話の中心人物だった。


小さな手足をバタつかせて、何かを主張するようにあわあわ言っている。


「カメリア…?ごめんなさいね、暗くなってしまって。

お母様のお顔、怖かったかしら…?」


「いあ、おえあ!」


「…」


首を振りつつ、懸命に何か言っているが…。

正直何のことやら。かわいいな。


そんなことを考えていたら、お母様に何やら訴えかけていたカメリアが、ばっとこちらをみた。

その直後。


『お姉!!』


「…え?」


頭の中に直接声が…なんだこれは。


「アイリス?どうかしたの?」


不思議そうなお母様。

確かにはたから見れば、急に独り言を言ったようにしか見えないだろう。

とりあえず何でもないと首を振るが、その間も先程の声が語りかけてくる。


というか、お姉って…もしかして。


「つばき…」


『そうだよ!お姉!つばきだよ〜。

ねえなんでこんなことになってんの!?世界観が面白すぎるんだけど!!

ていうかお姉ってば、転生してもカッコ良すぎない?やばくない?

いやむしろ転生してもなおお姉の幸せ逆ハーレムを拝めるなんて、私の方がやばい!?』


…間違いない。

スーパーハイテンションとどんな状況でも我が道を行くこの性格。

前世での私の妹、葛西つばきだ。


「あの、おかあさま。

かめりあがなにかいいたいみたいなので、すこしだっこさせてもらいたいのですが」


「え?そう…?

じゃあ、きちんと深く腰掛けて。そう。こうやって、首を支えてあげるの」


「よいしょ…、ありがとうございます」


私に慎重にカメリアを抱かせ、母は意味深にニッと笑って首をかしげた。


「…なら、お母様はちょっと席を外そうかしら?」


「はい、おねがいします」


なんだ…。

なんなんだその顔は…。

私とカメリアが会話できるとわかったのか?

いや、さすがに考えすぎか。


部屋から出て行ったお母様を見送り、改めてカメリア…もといつばきと向き合う。


「つばき、おまえどうしてかめりあになってるんだ」


『それはお姉もだよ!知ってたとはいえ見た目違うし、確認するタイミングないし、正直半信半疑だったから安心した〜』


ん…知ってたとはいえ?


「しってたって…それはどういうことだ?」


『え?お姉もそうなんじゃないの?』


「そうって?」


『もしかして、何も知らないの?

私たち、登校中に居眠り運転の大型トラックにはねられて死んじゃったんだよ。

でも、その後自称神様に転生を勧められて…私がお姉とまた姉妹になれるならって言ったら、厳しいかも〜とか渋ってたけど最終的にオッケーってなって、気が付いたら赤ちゃんになってたの』


「それ…ほんらいなら、わたしはふつうにしぬよていだったんじゃないのか?

わたしはそのかみさまにあっていないし、きがついたらここにいたんだ。そもそもじぶんがとらっくにはねられてしんだこともおぼえていない…。

つばきがのぞんだから、いまここにこうしているとかんがえたほうがしぜんなきがするが」


厳しいとかいうのも、死んだ人間の魂を取り戻すのがとか?そういうことなんじゃないかと思うんだが。


『そうなのかな〜。

ま、でもどっちにしたってまたお姉の妹になれたんだから結果オーライだよね!!』


「おまえは…はあ、そうだな…」


この妹と張り合い続けるのは、馬鹿がすることだ。

そう前世で学んだ。


「って、そうじゃない。

なんではなせるのかとかほかにもいろいろききたいことがあるが…それより、さっきおかあさまになにかいっていたのは?」


わざわざお母様に席を外させてまで話をしているんだ。

時間を無駄にしている暇はない。


『ああ、それそれ!

私に魔力がないのはお父さんのせいでも、もちろんお母さんのせいでもないって言いたかったの。

私が、お願いと引き換えに望んだことだからね』


「おねがい…?」


なんだそれは。

顔をしかめた私に、キラキラと効果音がつきそうな笑顔でつばきは言い放った。


『それはもちろん!お姉と姉妹にしてもらうことと、このテレパシーを使えるようにしてもうことだよ!

だって、喋れるようになるまでお姉と話せないなんて耐えられないし〜』


思わずがっくりと肩を落としそうになった。

お前というやつは…。

こんな理由でお父様が苦しんでいると思うと、なんだか身内が申し訳ありませんと言いたくなる。

実際はみんな身内なのだが。


さて…問題は、これをどうお父様に伝えるかだ。

そのまま言うのは難しい。

まず前世の話から始めなければならないし、子供の戯言と思われてしまうだろう。

かと言って、遠回しに伝えるのも…結果的にカメリアのせいだということになるし、なんとなく言い難い。

最悪、妹が生まれて構ってもらえなくなったから嫉妬してるのねなんて勘違いされたら、私のプライドが許さない。


私がうんうん悩んでいるのに、当の妹はきょとんとしている。


『何で悩んでるの?』


「つばきもきいてただろう?このせかいでまりょくをもたないこどもがうまれるのはいじょうなことなんだ。

おとうさまは、それをじぶんのせいだとおもってきにやんでる。

だから、なんとかしてじじつをつたえないと…」


『それは分かってるよう。

私が不思議なのは、お姉がどうして早くお父さんに言いに行かないのかなってこと』


やれやれと言いたげな表情に、少しむっとする。

それが出来ないから悩んでいるのに…。


『言えばいいんだよ。

私たちが転生者だって』


何を言いだすんだこの妹は。


ーーーーーー


◎2018・05・22

誤字修正しました。

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