王女殿下 5
「ど、どういうことです!なぜ助けられないのですか!」
セシリアは我を忘れ声を荒げる。
彼女に向けて鑑定士はただ無感情な声で淡々と結果を伝える。
「セシリア様が持ち帰られたあの薬草は、ごく一般的なもので特別なものなのではないからです。残念ですが...」
「そんな...」
「私はこれにて失礼致します。」
作業的に一礼した後、鑑定士は部屋から出ていった。
「ご主人様、これはいったいどういうことなのでしょうか。」
「あの鑑定士が言った通りだよ、あの薬草は市場でも売っている普通の薬草だ。」
「でもあれは確かにゴブリンが守っていた薬草のはずです!」
「ゴブリンはもともと知能が低いんです。僕達がどんな価値も見出だせないものを宝として守る事もある。」
「でも...でも!!」
突きつけられた現実をなんとか否定しようと言葉を必死に探すセシリアに、追い討ちをかけるようにハルトは続ける。
「それに、あの山の薬草は他のものに比べて良質というだけで特別な効果はありません。王宮の人達は知っていたのでしょう、だからあなたの頼みでも採取の為の部隊を編成しなかったんです。」
「で、では私達のやった事は..」
次の言葉は口に出したくないのかそのまま黙りこむセシリア、ハルトとルーナもその沈黙を破ろうとはしなかった。
数分の後、言葉を発したのは意外にもセシリアだった。
「そんな、本当に呪いだというの」
思ってもみなかった単語にハルトは
「ちょっと待ってください、その呪いというのはなんですか」
「実は、クロスフィールド家では何代かに1人こういった事が起こるんです。」
聞けばどんなに治癒魔法をかけても治らずむしろ、かければかけるほど悪化する病が王家の人間にのみ稀に起こるという。
「王家の人間にのみという点と、絶対に治らないという点の2つからクロスフィールド家の呪いと言われてるんです。世間には知られていませんが」
「...その呪いとやらにかかった王家の方は、ある程度高齢になってからではありませんか?」
「え、あ、はいそう聞いていますけど...」
話の中で年齢には触れていないのにも関わらず、真実を言い当てるハルトにセシリアは困惑する。
「王家の方達は他の人より特殊な魔力を持ってたりしませんか?例えば特有の魔法が使えるとか」
「...確かに、一般の人とは違う能力があります。個人によって現れ方は異なりますが...私の場合は魔眼という形で出ています。」
「セシリア様は魔眼の持ち主だったのですか?」
「はい、すいません隠すつもりはなかったんですが...」
ああ、それで.....
「えっと、その王女様のお父様...国王陛下の診察をすることは可能ですか?」
「それは可能ですが、一体?」
「もしかしたら力になれるかもしれませんよ」
ハルトの言葉で枯れかけたセシリアの笑顔の花に光が当たったように色を取り戻していた。
「お父様の容態はどうです」
国王の寝室に入ると、セシリアは先程とは違う王女の風格で診察していた医術師に訪ねる。
「芳しくありません、未だに原因も分からない状況です。」
「ちょっといいですか?」
セシリアの横を通り抜けてハルトが国王に近づいていく。
「ちょ、誰ですかあなたは!部外者が勝手に...」
「構いません、私がお願いしたのです。」
止めようとする医師をセシリアが制する。
2人のやり取りを背で聞きながら、ハルトは手を国王の胸の上辺りにかざす。
「......やっぱりな」
「ハルト様、ちっ父はどうなのですか?」
「これは...治りませんね」
「そんな!」
「魔法なら、ですが」
「それはどういう...」
「王女様の努力、無駄にはしませんよ」
■■■
ハルトが国王の寝室を出て1時間が過ぎた頃、セシリアは1人残りそこに横たわる父の手を握っていた。
「お父様...私は何もできません。ただ、信じるだけしか...今まで受けた愛を返すことすら出来ない愚かな私をお許しください......」
誰が聞くでもない言葉を発しながら目に涙を浮かべた時、寝室の扉が開いた。入ってきたのは準備があると言って退出したハルトとルーナである。
そして、ハルトの手には2つの液体がはいった瓶が握られている。
「ハルト様、本当に父は呪いなどではなく治す事が出来るのですか?」
セシリアは自らが信じると決めたが、今まで誰もが匙を投げてきた問題を前に否定されたくないと願いながら目の前の青年に問う。
「僕の診察が正しければ、そのはずです。」
「私は...あなた様を、ハルト様を信じます。」
「では、始めますね。ルーナ頼む」
「かしこまりました。」
ルーナは国王の手を取ると、魔法を発動する。すると...
「う”、あ”ぁぁぁぁ!!」
苦しみ悶え始める父の姿にセシリアは
「ルーナさん、何を!!ハルト様彼女を止めてください!!」
回復魔法は悪化させる一方であることを知っているセシリアは慌ててハルトに言い寄る。
しかしハルトはルーナを止めることはなく、確信を持った目でセシリアを見返す。
「王女様、さっきあなたは僕を信じると言いましたよね。なら信じてください、きっと悪いようにはなりませんから」
「ですが...!」
尚も悶える父に視線を落とすとセシリアは涙ながらに父のもう一方の手を固く握る。
「お父様、頑張って...」
「あ”ぁぁぁぁ.........!!」
この状態がしばらく続いた後、国王は叫びをあげなくなっていた。
しかし、目を覚ますこともなかった。
「そんな、お父様、嫌~~!!」
現実を受け入れることができずセシリアはただ泣き叫ぶ。
「ありがとうルーナ、もういいぞ」
「はい」
気にすることもなく淡々と会話する2人に、セシリアの悲しみは怒りへと変化していく。
「一体なにを!父の命を奪っておいて何故そんな態度がとれるのですか!!」
「何の事です?」
「セシリア様、落ち着いてください」
「落ち着いていられますか!今すぐここから出ていってください!さもなくば...」
「う”ぅぅ」
その小さなうめき声は、我を失ったセシリアの声にかき消されかに思われたがしっかりと彼女の耳に届いていた。
「お父様!!」
「国王は亡くなっていませんよ、単なるマナ欠乏による一時的な失神です。」
「マナの欠乏...?」
なぜそんな事が父の体に起こったのか、セシリアの怒りは完全に消え驚きと疑問が頭を埋め尽くしていた。
「ルーナが国王にかけたのは治癒魔法ではありません、マナドレインです。」
マナドレイン。本来は敵のマナを吸収し、魔法を使えなくする極一般的な魔法である。
ハルトは説明しながら手に持った瓶の1つの蓋を開け、中の液体を国王に飲ませていく。
それから数十秒後、セシリアが握っている手が微かに動きそして
「う”っ...ここは...セシリア、お前なのか」
「お父様...!」
「気づかれましたか」
「そなたは...?」
「私は旅の薬師でハルトと申します、こっちは共に旅をしているルーナです。」
ルーナは無言で頭を下げる。
「このお二人ならお父様をお救いできるかと思いお連れしました。」
「なんとそうであったか私はオルヴァ・フォン・クロスフィールド、知っておるかとは思うがこの国の国王だ。此度は世話になった様だ、何か礼を...うっ」
「これを飲んで下さい、まだ体力は回復していません。本来は毒味なんかが必要なんでしょうが早い方がいいので」
ハルトは残った瓶を国王に手渡す。国王は渡された瓶の中身をゆっくり腹内へ納める。
「これは...苦しみが嘘のように引いていく...」
「ハルト様、お父様は完全に治ったのでしょうか、そしていったい何の病だったのですか?」
「ああ、そもそも国王陛下はご病気なんかじゃありませんよ?」
「え、いやしかし現にお父様は...」
セシリアは当然の疑問を投げかける。オルヴァも同じ心境なのか娘と同様の表情を浮かべる。
「国王陛下が陥っていたのは単なる魔力混濁で引き起こされるショック状態です」
「魔力混濁?」
「国王陛下がこの状態になる前に怪我か何かをされたんじゃないですか?」
「確かに、少し前視察のための長旅で腰を悪くしてな魔術師にヒーリングをかけてもらったが...」
「それが原因です。」
「申し訳ありませんハルト様、私達にも分かるようにご説明頂けますか?」
「ああ、すいません。ヒーリングを含めた治癒魔法というのは、自分の魔力を患者へ流し込み治療または回復させるものです。その時に若干ですが術者の魔力が体内に残るんです。」
淡々と説明するハルトに、セシリアとオルヴァは素直に聞き入る。
「普通は身体の吸収機能によって自分の魔力に変換されるので問題はないんです。しかし、老いや病気などでその機能が上手く働かなくなる事があるんです。そうなると、術者の魔力がそのまま留まり続け今回の様なショック状態になることがあります。」
「でも、それなら対処法が広まっているはずでは?」
「いえ、本来この状態は魔力を放出する事で収まりますしここまでの重症にはならないので風邪なんかと間違う事が多いんです。なのでそこまでちゃんとした対処法なんてものはありませんし必要ないんです。」
「では、王家の呪いではないと」
「もちろんです、何代かに1人今回の様な事で亡くなる理由は王家の特殊な魔力によるものです。特殊な魔力故に一般の魔力との差が激しくショックが大きいんです。それに治らないからと多くの医術師に頼って魔法をかけさせることで数種類の魔力が混濁し自力で放出することが出来なくなってしまい、最終的に...」
「自らの魔力で衰弱し命を落とす...」
ハルトの最後の言葉をオルヴァは自分に言い聞かせるように引き継いだ。恐らく、先代の国王も怪我か病気で治療魔法をうけた事がきっかけだろう。
「なので最初にルーナのマナドレインで強制的に体の中の魔力を全て放出させます。そのあと飲ませたのはマナポーション、そして今飲んでもらったのは普通のポーションです。」
「では、最初からポーションで治療していれば」
「何事もなかったと思いますよ。まあ、今回のポーションは王女様が自ら国王陛下の為に命をかけて採取した薬草で作った特別製ですけどね。」
「ハルト様...」
「言ったでしょう、王女様の努力は無駄にはしないって」
笑顔で慣れないウィンクをしながら言うハルトに、セシリアはうつむき膝を折る。
「申し訳ありません、私は...お二人を信じきれなかったばかりかあんな酷いことを...」
端正な顔を歪め、涙を滝のように流しながら己の行動を悔いる。
「気にしないで下さい、僕もルーナも気にしていませんから」
「そうです。セシリア様はそれだけ、お父様を想っていらっしゃったというだけなのですから。」
「しかし...」
「なら、お詫びでも今回の依頼の報酬でもいいのであの薬草の残りを譲ってはくれませんか?」
「...え?」
「ちょうど魔術薬をつくる素材がなくて困っていましたし、あの薬草は市場で手に入るものよりも良質ですから。もらえるのでしたら儲けものです。」
あえて茶化しながら提案するハルトにセシリアは涙をで濡れた顔に精一杯笑顔を作りながら
「分かり、ました。お好きなだけ持って行ってください。」
■■■
「さて、そろそろ行くか」
「はいご主人様、支度は済んでおります。」
国王を救った翌日、お礼としてそれなりの素材と資金とをもらったハルトとルーナは次の街に向かうためクラベリナを後にしようとしていた。
「よろしいのですかご主人様、ご挨拶などしなくても。」
「いいさ、王女様がこんな一般人とあまり話してるのも良くないだろうからね。」
そう言って宿を出発してすぐ、ルーナが頭に引っ掛かっている事を口に出す。
「それにしても、なぜセシリア様は私達に声をかけたのでしょう。他に冒険者はいたでしょうに。」
「本人が言ってただろう、魔眼を持ってるって。恐らく潜在的な能力や自分の求めるものが分かる見識系の魔眼だよ、ルーナの戦闘力や今回の件を解決するためには魔術薬がいると言うことを無意識に感じ取ったんだろう。」
「なるほど、流石ご主人様ですね。」
そんな事を話しながら門を出ようとしたところで
「ルーナさ~ん、ハルト様~!」
後ろから走ってくる人影があった。
「王女様!?」
「はぁはぁ、ひどいですよハルト様一言もなく行ってしまうなんて」
「す、すいません。」
「しょうがないですね、ではセシルと呼んでくれたら許してあげます」
意地悪っぽい笑みを浮かべながら言うセシリアにハルトはしばらく困惑するも、観念したのかため息混じりに応える。
「分かりまし...」
そこまで言って、頬を膨らませたセシリアをみたハルトは
「...分かったよセシル。じゃあ、僕の事もハルトで」
「うん、ハルト。また何処かで会いましょう」
「ああ、必ず」
セシリアとハルトは硬い握手を交わしそれ以上話さない。
「ご主人様、そろそろ。」
「あ、ああそうだね。」
ルーナに気づいたセシリアは、ルーナの両手を取り
「ルーナさん、今度は一緒に街をみて回りましょうね!」
「はい、約束です。」
「二人ともいつの間にそんなに仲良くなったの?」
「「内緒です」」
互いに笑い合う二人に、ハルトはそれ以上追及する気にはなれなかった。
「それじゃ、セシル元気で。」
「セシリア様、風邪などにお気をつけて」
「私からもこれからのお二人の旅が良いものになりますように。」
ルーナが綱を引き、荷馬車が動き始めたその時。
「ハルト!」
飛びのったセシリアがハルトの頬にそっと口づけ。
「え、セシル!?」
「これは、私個人からの依頼の報酬です」
そう言うとセシリアは飛び降りて何事もなかったかのように、進む荷馬車を笑顔で見送る。
その笑顔には、枯れていた花の面影など微塵もなく生き生きと回りを照らす向日葵となっていた。
「全く、無茶するな~」
「......」
「ルーナ、何で怒ってるの?」
「怒ってませんよ」
「僕何かした?」
「知りません」
プイッとそっぽを向くルーナの心境をハルトが理解する日は、まだ遠そうである。
お読み頂いてありがとうございます。
拙い文章ですが、楽しんで頂けてるなら嬉しいです!
さて、ようやく第1章国王の病が解決しましたね!
次からは第2章へと突入していきます。
ルーナとセシリアが仲良くなった経緯はまた出てくることもあるかもしれないし無いかもしれません(笑)
いきなり新しいキャラも出てくる予定なので、気長にお待ち下さい!
お楽しみに!!
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