王女殿下 1
揺れる荷馬車の荷台で寝ていた男がゆっくりと目を覚ます。
「お目覚めになられましたか、ご主人様?」
荷馬車を操るメイドにご主人様と呼ばれたその男は、若干幼さを残した顔立ちでいかにも青年といった感じだ。
「ああ、もう着くの?」
「あと小一時間ほどで到着します。」
やっとか、とハルトは固まった身体を伸ばしながら前方の御者台で馬を操っているメイド服のの少女の横に移った。
「お休みにはなられましたか?」
「揺れる板の上でぐっすり寝られるほど僕は無頓着じゃないよ。」
実際は、寝て起きたら悠に3時間経っていて悪くない夢を見るくらいは熟睡していたのだがそれを肯定するには彼の何かのプライドが許さないのだろう。
「ルーナはどう?少しだけでも休む?」
「いえ、私にはこれくらいは何でもありません。」
ルーナ---長い髪を邪魔にならないよう後ろでまとめ、まるで人間の少女のような姿をしている。数年前にハルトに命を救われて以来、ハルトと共にメイドとして旅をしている。
「強いて言えば、少々退屈でした。」
「そうか、なら街に着いたら観光でもしたらいい。寝てしまったお詫びに付き合うよ。」
「い、いえ。ご主人様を付き合わせる訳には....それにお仕事で向かわれてるのですから、そんな時間は....」
「な~に、これから行く街は俺も初めて行くからなどうせ地理を覚える必要があるし、今日すぐに仕事を始める訳ではないから大丈夫だよ。」
「そ、そういう事でしたらお言葉に甘えさせて頂きます。」
ルーナは嬉しい感情を抑えてはいるが、その口角は僅かに上がり頬は赤らんでいる。第三者から見ればルーナからハルトへ向けられている感情は分かりやすいのだが....
「お、あれじゃない?へぇ、結構でかくて栄えてそうだね。」
「はい、楽しみですね!」
「そうだね、これなら仕事の方もはかどりそうで楽しみだ!」
「そう...ですね.....」
例によってこの物語の主人公は、鈍感というスキルを持ち合わせていた。