それは青年のためだけの
2018/05/20
とある街のとある場所 少年が一人住んでいた
たくさんの物を両手に抱え 幸せそうに笑っていた
どれもとても大切な キラキラ光る宝石たち
「見て見て 僕はこんなのだよ」と
口癖みたいにそう言って 少年は自分を主張した
誰かが横を通り過ぎ クスクス小さく笑っている
友達だと思ってた子は 不快そうに少年を貶す
少年の宝物を母親は『要らない物』だとため息ついた
「目立つんじゃありません、恥ずかしい」
別に 目立ちたいとは思っていなかった
ただ 少年は 言いたかった
ここに居るって 生きているって
怪訝な顔をされるだなんて まったく思いもしなかった
ごめんなさい ごめんなさい
宝石を1つどこかに捨てた
ごめんなさい ごめんなさい
宝石1つ放り捨てた
ごめんなさい ごめんなさい
宝石1つ投げ捨てた
ごめんなさい ごめんなさい
手の中が空っぽになった
体育座りで顔を伏せ めそめそ少年が泣いている
抱える物はなくなった 全部全部捨ててしまった
本当にそれでよかったのか 考えるのも怖かった
どうすることもできなくて 涙で目を赤くした
何も手元にないままで 少年は青年になった
心の中で泣いていた 青年は静かに泣いていた
心の部屋の片隅で 体育座りで泣いていた
宝石たちが恋しくなった けれど全部捨ててしまった
それに 持っていたら目立ってしまう
目立つとまた叱られる
目立つことは 恥ずかしくて悪いこと
本当にそれはそうなのか
疑うことも怖くって 自分の腕で自分を抱く
自分を主張することは 実はいいことなのかもしれない
周囲を見るたび過る思考に 青年は目に涙を溜めた
本当はどうなのだろうかと 闇の中 青年は考える
母親は正答を知らなかった
誰も正答を示さない
正答を出すのは青年自身
それは 青年のためだけの正答
泣きべそをかく青年の前で 微かに何かが瞬いた
ぐしゃぐしゃになった顔を上げ そっと両手で光をすくう
光はどこか優しかった 光はどこか懐かしかった
青年はそれを知っていた いつかはそれを持っていた
キラキラと光り輝いた たくさんの たくさんの宝石
それはずっとずっと昔 青年が少年だった頃
持っているのが嬉しかった 叱られまいと捨ててしまった
自信と 誇りという名前の宝石
青年は宝石を掻き抱いた 涙に笑い抱きしめた
宝石を強く握りしめる もう絶対になくさないと
太陽と月が行き交う下を 弱くも強く青年は生きる
不安と恐怖の闇の中を 震えながらも歩いていく
一度なくした宝石を もうなくさないと心に決めた
誇りを胸に自信を持って 青年は胸を張り生きていく
それが青年のためだけの正答
日々を懸命に生きていく。他人の抑圧を跳ね除けて、自分だけの正答を胸に。




