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働き蟻たちのフォークソング(一夜限定スズナリの会)

作者: ホオジロ

 錫蒔隆さんへ敬意と感謝のしるしとして。

 昨日、どこかで誰かが練炭自殺した。それで火事になった。今朝、ニュースキャスターが話していた。パインアップルみたいな太陽が恋しい季節になったんだ。肺がちくりと痛むのはきっと、冷たい空気が流れ込んでくるせいだろう。




 雑巾みたいな作業着で、僕は人混みに流されて歩いていた。雑踏とクラクションの不協和音が、僕の足を引き止めた。




 年寄りの労務者がひとり、歩道に仰向けになって倒れている。僕とおんなじ作業着で。針みたいな北風にあらがうことを辞めてから、一体どれほど経ったろう。よくよく観てみると、亡骸の顔に朝露がへばり付いている。




 スーツ姿の働き蟻がひとり、年寄りの顔に新聞紙を被せて去ってゆく。僕はたばこを咥え、その様子を眺めていた。僕がたばこを吸い終わるずっと前に、新聞紙は風に巻かれ飛んでいった。




 年寄りの右手が何かを握っている。十一日目の鏡餅みたいにカチンコチンの指をこじ開けると、十円玉が四枚。僕は財布を取り出して、あと二枚、あげた。




 やがて、青い信号の合図で巨大な交差点が、動き始めた。


 完

 お題「文章至上主義」で執筆させていただきました。

 なお、本作は高石友也の楽曲「労務者とは云え」を下地にして執筆したものです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵な文章ですね。いつか、わたしにも書けるかな。 勉強します。
2019/10/10 15:14 退会済み
管理
[一言] 私は、井上陽水を思いうかべました。 「文章至上主義」 すばらしい散文でございました。 うまい言葉が見つかりませんが、好きです。
[一言] 美しく、そして物哀しく、素敵な詩ですね。ヒリヒリとした余韻が、痛くも心地いいです。綺麗で意味深で切れ味のある文章。おまけに背後に見える不気味で巨大な社会の歯車が、背筋をスッと冷やす。ああ、怖…
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