7 変化
次の日から、二人の交際はスタートした。
かと言って、何も特別な事をしていたわけではなかった。
いつもの様に、朝二人でみのるの家へ向かい、放課後一緒に絵を描くという生活だった。
しかし友喜はそれでも良かった。
二人で一緒にいれること、隣に千夏がいること。それだけで幸せだった。
ただ一つ望があった。
”そろそろ……。あれだ……。あれを……。”
あれとは、あれだ。
そう思いながら、今日も放課後二人で絵を描いていた。
「なあ千夏。」
「なに??」
千夏は、絵を描いている手を止めた。
「あの……。なんだ……。その……。」
「何よ。」
千夏は笑顔で答えた。
「その……あれだ。いや……なんでもない。」
「あはは。何が言いたいの??言いたい事は、はっきり言いなさい。」
「いや……、今はいいよ。」
「今日の友喜は変わってるね。相も変わらず、秘密主義だね。」
「そうだ。」
「もう。」
そして、二人はまた絵を描き始めた。
そのまま日は暮れた。
友喜は、家の前まで千夏を送った。
「じゃあな。」
そう言うと、友喜はすぐに家に帰ろうとした。
「あ。友喜。」
千夏に呼びとめられた友喜は、フと振り返った。
その瞬間、唇に柔らかい感触を感じた。
千夏の髪から、甘い香りがふわっと流れてきた。
友喜は一瞬時が止まったかの様に感じた。
背伸びをしている千夏が、とても愛らしく感じた。
その柔らかい感触は、少しずつ離れて行った。
「じゃあね。秘密主義くん。」
「……おう。」
そう言って、千夏は駆け足で家の中へと消えて行った。
友喜は、目を見開いたままその場に立ち尽くしてした。
”馬鹿野郎。秘密になってないじゃねえか。……ありがとう。”
そう思いながら、友喜もゆっくりと家へと帰った。
それからは、別れ際に毎回の様にキスを交わした。
そんな生活が半年近く続いた。
そんなある日の朝。
「実。おはよう。」
「みのるんおはよう。」
「なんだよ、『みのるん』って。」
友喜は、笑みを浮かべながら千夏に聞いた。
「実くんに決まってるじゃない。」
”わかってるよ。”
そう思いながら、みのるの返事を待った。
「ああ。おはよう。」
やっとみのるが返事をした。
「おう。どうした??体調でも悪いのか??」
心配した友喜が言った。
「いや。大丈夫だよ。」
「そうか。あ。これ今日の絵だ。」
そう言って、一枚の絵をドアの下の隙間から入れた。
するとみのるから、一枚の折りたたまれた紙が返ってきた。
そこには、『友喜が一人の時に読んでくれ。』と、書いてあった。
その事に、千夏は気付いていなかった。
友喜はその紙を、そっとポケットに入れた。
「実くん今日も来れないの??」
と、千夏がみのるに聞いた。
「うん。そうだな。まだ無理そうだよ。」
「そうか。体調管理には気を付けろよ。」
友喜は言った。
「分かってるよ。じゃあ今日はこの辺で。」
「おう。じゃあまたな。」
「おう。じゃあまたな。」
千夏も真似して言った。
友喜は”また、お前は……。”と、いう顔をしながらその場を後にした。
友喜は学校に着いてから、今朝みのるに渡された紙を見る事にした。
そこにこう書いてあった。
『まだ詳しい事は言えない。
でも、やばい事になってきた。
俺は命を狙われてる。
この部屋は盗聴されているかもしれない。
会話は、お前の絵の裏と、俺のこの紙でする。
俺がこの紙を渡す時の合図は、俺が「今日の天気は??」と、聞いた時だ。』
と、書いてあった。
友喜は、自分の目を疑った。
”何で実が狙われているんだ??盗聴??一体どうなってるんだ??”
そう思いながら、その紙をまたポケットの中にしまった。
”俺の知らない所で、何が起きているんだ??”
そう、友喜は思った。
その日の放課後も、絵を書いた。
そして家に帰ってから、みのるの手紙を書いた。
もちろん、絵の裏に。
『どういうことだ??誰に命を狙われているんだ??
俺に出来ることがあれば、何でもする。
言ってくれ。』
と書き、次の日に備えた。
次の日の朝、
「おはよう。」
「実くんおはよう。」
二人は、みのるの家にいつもの様に着いた。
「おはよう。あ、友喜。今日の天気は??」
と、みのるが合図を出した。
友喜の顔付きが変わった。
だが、千夏に気付かれてしまわぬように、すぐに元の顔に戻した。
「えー。実くん、カーテン閉めてるの??」
千夏は、心配そうに言った。
「そうなんだ。俺はいつもカーテンを閉めて生活してるんだ。」
「そっかあ。健康に悪いよ。いつも開けてなさい。」
「あはは。そうだね。いつか開けるよ。」
「もお。」
千夏は、頬をプクっと膨らませた。
「まあ、カーテンくらいいいじゃないか。今日は晴れだ。実。
あ、それと今日の絵だ。」
そう言って、ドアの下の隙間から絵を入れた。
それと同時に、みのるからの手紙が返ってきた。
「そっか。晴れか。おっ、今日も上手いね。友喜。」
「本当に、友喜は上手いよね。でもでも、アタシもそのうち、友喜より上手くなるんだから!!」
千夏は、友喜を見ながら言った。
「お前には、抜かせないさ。」
友喜は笑顔で答えた。
そして、ポケットの中にそっと手紙を入れた。
「また友喜はそんな事言うー!!すねちゃうよ!!ぐれちゃうよ!!」
千夏はまた、頬を膨らませながら言った。
「あはは。嘘だ、嘘。いつか、俺と千夏で店持つんだもんな。」
友喜は笑いながら言った。
「おお。そうなのか。」
みのるは驚いた様に言った。
「そうなんだ。この間、友喜と約束したの。」
千夏は言った。
この約束は、二人で絵を描きながらしたものだった。
将来について、話している時に、友喜が思いつきで言った。
それを、きちんと友喜は覚えていた。
「実。その時は、従業員として雇ってやるぞ。」
友喜は冗談めかして言った。
「そりゃ助かるよ。頼んだよお二人さん。」
みのるも笑いながら答えた。
「まかせなさい!!あっ!!友喜時間だよ!!」
千夏は自信満々に答え、時間を指摘した。
「そうだな。そろそろ行こうか。じゃあ行ってくる。」
友喜は答えた。
「え??今日は誘わないの??」
千夏は友喜にたずねた。
「今日はいいんだ。」
「何それ。まあいいや。行ってきます!!」
千夏は、深くは考えず答えた。
「行ってらっしゃい。」
みのるも笑顔で答えた。
学校に着き、友喜はみのるからの手紙を取り出した。
そして、一人でその手紙を読み始めた。
『昨日はいきなりすまない。千夏ちゃんにばれていない事を祈るよ。
昨日の続きだが、友喜も千夏ちゃんも危ないかもしれない。
夜の道なんかは、気を付けてほしい。
夜は、絶対俺の家に来ないでくれ。』
そう書いてあった。
”一体誰が何のために、実や俺達を狙ってるんだ……。”
そう思った。




