2 出会い
放課後絵を描き、それを持ってみのるを朝迎えに行く生活。が1ヶ月続いた。
毎朝、毎朝みのるは”帰ってくれ”と友喜に言った。
その日の朝も、もちろん友喜はみのるの家へと向かった。
「おはよう実。」
「おはよう。」
「今日は、1年生が終わる日だ。」
「そうみたいだね。」
「どうだ?最後の日くらいこないか??」
「すまない。行けないんだ。」
「……やっぱり、思い出すのか??」
「……そうだ。でも、きっと俺にも遅かれ早かれ行ける日がくるよ。」
「そうか。その日が早かったらいいな。」
「うん。すまない。」
そして、そのまま家を出た友喜は学校へ行き、終業式を済ませた。
家に帰る時、友喜の家の隣が騒々しいことに気付いた。
”誰か引越してくるのか。”
友喜の見つめる先には、大きな”白猫引越しセンター”と書かれた、大きなトラックが止まっていた。
その中から、家の中へと荷物が運ばれて行っていた。
”隣はずっと空き家だったな。”
そう思いながら一時、家の前からその作業を見学していた。
するとトラックの陰から、なにやら女の子が出てきた。
とても友喜好みだった。
友喜は無意識で、サッと自分の家の中へと隠れた。
玄関に入って、
”……やばい。本当に好みだ……。”
肩で息をしながら、そう思っていた。
学校は終業式を迎えたため、春休みに入った。
友喜は、絵を描くことに集中した。
もちろん、みのるに見せるためだ。
”この絵で、実を元気にさせるんだ。”
そう思って日々書き続けた。
同時に友喜は、”隣に越してきたあの子”の事をずっと考えていた。
”同い年くらいに見えたな……。”
”学校はどこなんだろう……。”
”彼氏はいるんだろうか……。”
そんなことを、ずっと考えていた。
今までは、部活で絵の具は寄付されていた。
友喜は部活を辞める前の日に、ありったけの絵の具を学校から持って帰っていた。
しかし、その絵の具がとうとう尽きてしまった。
”こりゃいよいよ買わなきゃな。”
そして、実費で絵の具を買い始めた。
友喜には、”行きつけの店”があった。
友喜の家の前の道、川沿いにまっすぐ行った所に、『イマガワ画材屋』というところがある。
次からは、ここが絵の具の調達場所となった。
そして春休みが終わり、新学期が始まろうとしていた。
始業式の日の朝、いつものようにみのるの家へ向かった。
「おはよう。実、今日は学校へ来ないか??」
「おはよう。いや……まだかかりそうだ。」
「忘れれるまでってことか??」
「……そうだよ。」
「そうか。でも、今日は始業式だ。学校へ行くチャンスだと思うが?」
「……分かってるよ。」
「それでも無理なのか??」
「……。」
みのるは沈黙した。
友喜は、痺れを切らして部屋に押し入ってみのるを連れ出さそうとした。
”ガチャ!!!”
大きな音を立て、ドアを開いた。
そこにはみのるの姿があった。
すると、みのるはかなり驚いた様な顔をした。
「来るな!!!!」
そういって、みのるはドアを閉じようとした。
その時、鈍い音を立てながら友喜の左手がドアに挟まってしまった。
「いって!!」
友喜はその左手をドアから引き出し、痛みにもだえた。
「すまない!!大丈夫か友喜!!」
ドア越しにみのるは叫んだ。
「……だい……じょうぶだ。……すまない。」
痛みに耐えながら、友喜は言った。
「いや、謝るのは俺だ!!ごめん。本当にごめん!!」
「そんなに謝るなよ。ちょっと痛いが、左手だ。絵は描ける。」
「……すまない……。」
「気にするなって。おっと。そろそろ時間だ。行ってくるよ。」
「ああ……。」
友喜はその足で、近くの病院へと向かった。
診断の結果、指2本が脱臼していた。
その場で、骨をはめられる事となった。
そして処置が終わり、包帯をした手で学校へと向かった。
”今日はいつもより早く出たのに、遅刻だな。”
と、思いながら学校へと向かった。
教室の前へと着いた。
もう始業式は終わっており、皆教室にいた。
入ろうとしたら、なにやら騒がしい。
教室の前のドアが少し開いていたので、そこから中の様子を覗くことにした。
そこには、一人の女の子が立っていた。
”あれ??どこかで見たような……。あ!!隣に越して来た子だ!!”
友喜は一人で驚いた。
「ど……どうも。はじめまして。近藤千夏っていいます。よろしく……お願いします。」
どうやら、自己紹介をしている様だった。
”近藤千夏って言うのか。……っていうか、入れない。”
その後一時経って、千夏が席へと着いた。
そして、五十嵐が出席を取り始めそうな仕草を見せた。
”やばい!!入らなきゃ!!”
そう思い、一気に前の扉を開けた。
”ガラガラガラ”
一気に、注目の的になった。
「どうも。」
”またこれか……。勘弁してくれ。うわあ。千夏ちゃんも見てる……。”
そう思っていたら、五十嵐が話しかけてきた。
「どうもじゃないぞ!遅いぞ!遅刻だぞ!」
五十嵐は、”またか”という感じで、呆れた様に言った。
友喜はチラッと腕時計を見て、
「どうやらその様だな。」
と、言った。
”違う!!今日は病院へ行ってて遅れたんだ!!”
そう思ったが、言えなかった。
「なんで君はいつも、そう偉そうなのかねえ……。。。って。指、怪我してんじゃない。どうしたの?」
五十嵐は、指の怪我に気付き友喜に言った。
”しまった。何て言い訳しよう……。えっと、普通こういう時漫画では……。階段だ!!”
「もちろん、階段で転んだんだ。」
と、言い放った。
五十嵐は呆れた様子で、
「もちろんってあのなぁ……。。。まぁいいわ。とりあえず座りなさい。」
と言い、友喜を席へと促した。
「うい。」
”……これでいいんだ。”
そう思いながら、席へと着いた。
そして五十嵐が出て行った後、友喜は千夏にコンタクトを取りに行こうとした。
しかしそれよりも早く、美香に千夏を取られてしまった。
そして瞬く間に、女の子に囲まれていた。
入る隙間が無くなってしまった。
仕方なく、コンタクトを取るのを諦めた。
しかし耳だけは、しっかりと千夏の元へと行った。
「えっとぉ……元は福岡に住んでたよ。……」
千夏が女の子の軍団に答えていた。
その言葉を友喜は聞き逃さなかった。
”福岡?!俺の行きたい所じゃねえか。”
そう友喜は思った。
”明日だ。明日話掛けよう。”
その想いを胸に、その日の学校は終わった。




