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キングズマン  作者: 凡人
王の誕生
6/6

6



城の外で火事が起きにわかに騒がしくなっていることに、城内の門付近の衛兵たちは気づいていたが跳ね橋をおろし助けに行こうとする気配は一切なかった。

それもそのはず、城外の衛兵たちが外の治安維持を担っていて、城内の衛兵たちはあくまで城内の高貴な人間たちの命を最優先にしなければならないのである。

城外で問題が起きたからといって、そうやすやすと跳ね橋を降ろして助けに行ってたのでは外の衛兵たちの存在意義などまったくない。

加えて、なんの許可もなしに跳ね橋を降ろして助けに行ったと上官にばれたら間違いなく首が飛ぶので、間違っても勝手に跳ね橋を降ろすことなどはしないのである。


そもそも、その騒ぎは何者かによって故意的に起こされたものかもしれないのである。

そうであった場合、のこのこ跳ね橋を降ろして助けに行ったのでは相手の思うつぼなのである。



仮に、なんの策が張り巡らされていなく、上官にばれないということが前提にあったとしても、城内の衛兵に助けられたとあっては城外の衛兵たちの面目は丸つぶれになるので、よほどの時以外はいい顔はされない。



以上のような理由で、外で火事が起こっていると目で確認しながらも、城内の衛兵たちは早く消火してくれだとか、自分の家の方には火が広がらないといいなーだとか、まるで他人事のように外の様子を傍観しているのであった。




「誰か来たぞ。警戒しろ。」



城壁から、外を見下ろしていた衛兵たちはすっかり気が緩んだ様子であった。

そんなとき、屋敷の方から人影が現れ、跳ね橋の方へ向かってきた。

跳ね橋の衛兵たちの統括を任せされている騎士がその怪しい人影に気付き警戒の声を上げた。



「おい、お前、止まれ。止まって、名を名乗れ。少しでも怪しい動きをしたら矢を射るぞ。」



さっきまでの火事への関心などどこかへ飛んでいき、すぐさま緊張した空気が場を支配する。

騎士は、城壁の上から自分の付近の兵士、跳ね橋の前にいる兵士に目配せをして、その怪しげな人影に矢を射る準備をさせた。

実際の戦場を経験した人間など衛兵側にはいない、彼らの唾を飲み込む音すら聞こえてきそうなほどの静寂が包み込んだ。



「驚かせてわるいね。大丈夫、敵意はないよ。」



両手を上げ、暗闇から現れたのはロイスであった。

それを見て、衛兵たちは安堵して小さく息を吐き出した。



「ロイス辺境伯、何故こんな時間にこのような場所にいるのですか?それも、自分の護衛のものまでつけて。」



しかし、騎士だけは他の衛兵とは違い警戒をとくようなそぶりは見せなかった。

むしろ、現れたのがロイスだと確認できるとよりいっそう警戒を高めたようにすら見えた。

彼がロイスを見る目もはや疑いの目ではなく完全に敵対するものを見る目をしていた。



「ふっ、あんたは話が早くて助かる。私にも無駄な時間はないもんで助かるよ。」



なにがおもしろいのかその場の人間にはわからなかったが、ロイスは騎士を見て確かに笑った。



「いったい、なにがおもしろい。お前はこの状況が見てわからんのか。お前の味方は城の外、俺が指示をだせばお前は無数の矢に貫かれて死ぬのだぞ?ここにある銅鑼をならせば他の騎士や衛兵たちが駆けつけてくるのだぞ?」



ロイスが笑ったのが癇に障ったのか騎士の言葉には先ほどとは違い苛立ちが含まれていることが容易に感じ取れた。

しかし、彼の言っていることに間違いはない。

ロイスの連れてきた兵は城の外、この場にいるのは自分を合わせて三人のみである。

一方で、騎士と衛兵は合わせて十数人はいる、加えて銅鑼をならせば城内に控えている衛兵や騎士たちが即座に集まるので人数差は圧倒的なものであろう。

そのような状況で不敵に笑うロイスはこの場にいる衛兵たちには理解ができなく、そのさまがひどく恐ろしかった。



「君は私がここに現れただけなのに、そこまで警戒しているからさ。だから、面白くってね。」



「・・・・どういう意味だ。」



騎士には依然としてロイスが笑う意味が分からなく、苦虫を噛み潰したような表情でにらんだ。



「悪いね。私は自分で納得をしてしまうと話を端折る癖があってね。

 君は僕を見るとどうしてか直ぐに敵だとみなしたような目つきをしたよね。その証拠にまだ僕に弓を引かせたままだしね。王族に弓を引くということはそれだけで死罪に値するのを騎士がしらないわけがないのに、君は私が誰かと確認したうえでなおそれをやめようとしなかった。

たかが、跳ね橋警備の騎士が疑わしいとだけで、自分の意思でそんな指示が出せるわけないさ。」



「・・・・・・・・それがどうしたというんだ。」

 


「スレイン公爵から指示受けているんだろ?

この国で私のことを一番警戒していて、亡き者にしたがっているのは間違いなく彼だからね。君も大変だ。」



「だからなにがいいたい。」



ロイスの言っていることは軒並み的中していた。

ここを仕切る騎士はスレインの子飼いの騎士であり、ロイスが不審な行動をとったら迷わず弓を引け、剣を抜けという指示を受けていた。

だからこそ、こんな時間に跳ね橋にやってくる誰が見ても怪しい王族に弓を引くことができたのである。

ここにやってきたのが王やジョセフならば弓を引くという指示など彼ごときに出せるはずはない。

彼は自分の意思などなく完全にスレインの言いなりだった。

騎士の誇りは失われ、忠誠はだれに捧げればいいかなどもう彼にはわからなかった。

自分の心中を推し量られ同情されたような気がして声を荒げずにはいられなかった。




「スレイン公爵は私を警戒しているつもりなんだろうけど、これくらいの人数で私をどうにかできると本気で思っているみたいで笑えてしまっさ。

・・・・・・あまり、私をなめるなよ。」



ロイスのまとう雰囲気に気圧され、心臓を素手でつかまれたかのように一瞬呼吸ができなくなった。

どうすればこんな雰囲気をまとえる人間になれるかはわからない、そもそも目の前にいるのがほんとに自分と同じ人間なのかさえ彼にはわからなかった。




「もう、わかっているとは思うけど、私がここに来たのはスレイン公爵の恐れていたとおりの理由さ。君たちをここで全員なで斬りにするのも悪くはない。

でも、何も言わず跳ね橋を降ろしてくれたら悪いようにはしない。」



「何を言うかと思えば寝返れか、それがあなたの策か・・・。あなたが、私たちの誰よりも強いことはわかる。だが、いくら強くともこの人数を相手にはできまい。なにか策があるかとおもえばそんなことか。」




さきほど、ロイスを見て恐れはしたが彼の策は自分たちを寝返らせることと知るや、こちらの方がまだ有利であると気付いた。

彼の目的は跳ね橋を降ろすこと、だがそれに下にいる衛兵を相手した後に、騎士や数人の衛兵が立っている城壁まで上がってこなければならない。

そんなことはたかが三人でできるはずがないからこそ自分たちを脅し寝返らせさせようとしているのであると騎士は思った。


誇りも忠誠心も失った自分に残っているのはもう命だけである。

そんな騎士は自分に信はないと気付きながらも自らの命を守るためにスレイン公爵側につくことを選んだ。




「奴を狙え。奴は反逆者だ。」



衛兵たちはロイスと騎士が言い争っているのを見てどちらにつけばいいいかわからなくなっていて、ロイスにひかれていた弓はいつの間にか宙ぶらりんの状態であった。

しかし、自分の上官に指示を出されれば、弓を引くしかなく、今にも放たれそうな無数の矢がロイスにむけられた。



「悪く思わないでくれ。私にはスレイン公爵を裏切ってあなたにつくほどの勇気など持ち合わせていないんだ。」



「残念だ。」



ロイスがそう呟いたのを聞いてか聞かずか、衛兵によって放たれた矢が寸分の狂いもなく騎士の眉間を射ぬいた。

眉間を射ぬかれ糸を切られた操り人間のように力なく崩れ落ち城壁から地面に落下した。




「跳ね橋を降ろしてくれ。少々時間を無駄に使いすぎた。」



ロイスが城壁にいる衛兵に指示をだすと、慣れた手つきで跳ね橋を降ろし始めた。

最初から計画されていたような一連の流れを見て、他の衛兵たちはなにが起きたのか皆目見当がつかずただただ茫然としていた。



「目的は達成したから、こちらとしては君たちの相手はしなくて構わないんだけど、どうする?」



もとからロイスと争う気などなく上官に強要されて弓を引いていただけなのだ、士気などあるはずもなくあっさりと弓や剣を地面に置いた。



一戦交えることもなくあっさりと城門を制圧したロイスの手腕に護衛は感嘆し、衛兵は依然として何が起こったのかわからない様子であった。




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