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キングズマン  作者: 凡人
王の誕生
5/6

5

更新遅れました。申し訳ないです。



アルカスの空はここ数年の王の無念を表すかのような暗く陰鬱な夜空であった。

そして、今夜はそれを払うかのような美しい月の光が差し込んでいた。



いつもと変わらない夜はいつものように人々を寝床に誘い、アルカスは静寂に包まれていた。

人々が寝しずまっている時間帯にもかかわらず起きている者といえば、城門付近を警備する衛兵と、城内の衛兵、貴族子飼いの騎士がちらほらといるだけであった。




「ふあぁぁー、眠い。アレン、交代まであとどんくらいだ?」



跳ね橋前の皮の鎧を着こんだ衛兵は大きな欠伸をしながら伸びて、傍らにいる同僚アレンに交代をせがむようにして呼びかけた。



「何言ってんだよヒース、さっき交代したばかりだろう。サボってるところを、ビルさんに見られたらまたどやされるぞ。」



いつものようにサボろうとしているヒースに呆れたようなまなざしを向けて、そんな彼には構わずまじめに仕事を全うすべく、怪しいものはいないか辺りを見回した。



「おどかさないでくれよ。この前もどやされたばっかりなんだから、次サボっているところでも見られたらなにされるかわからないって。でも、どうせ不審なやつなんてこないし、警備を必死にやったって給金が良くなるわけでもないし、昇進できるわけでもないんだし、適当にサボった方が賢いってもんさ。」



アレンの忠告など意に介さずといった様子で、手を頭の後ろで組み、空を眺め出した。



「おい・・・・ヒース。あっち見ろよ。なんかおかしいぞ。」



ヒースのことなどほっておいて周囲を見渡していたアレンは怪訝な声を上げた。



「そんなこといって俺を騙そうったってそうはいかんよ・・・・なあ、おい、燃えてないか?」


「ああ・・火事だ。まずい、まずいぞ。ヒース、お前はみんなを呼んで火消しの道具をもって来てくれ。俺は先に行って、周りの家の人を避難させてくる。」



焦りの色を隠しきれないアレンは必死に自分を抑え込みヒースに指示を出すと火事が起きている方向に引き寄せられるように走り出した。

普段はさぼりがちなキースではあるが、一大事となれば当然働くわけで、アレンの指示を受けると直ぐに、他の兵士が控えている詰所に走り出した。



火事というのは注意していても火を使っている以上、絶対に起きないということはない。

しかし、アルカスの城壁と市壁に囲まれたこの地で、しかも夜に起きる火事となれば厄介であることこの上なかった。

家が密集して建っているため、一度火事になったら隣家に火が燃え移り、消火が遅れれば一面火の海になる。

もしそうなれば、もうどうにもしようがない。家を間引いて火が広がらないようにするしかないのである。

しかも、夜の火事となると人々の混乱は免れないし、消火も遅れるのでことさらに厄介であるのだ。

 


一足先火事の現場に向かって、民を避難させようとしているアレンに遅れること10分少々、ヒースは詰所に控えていた同僚をすべて引き連れ、彼らもまた引き寄せられるように走っていった。



本来なら跳ね橋の周辺を警備する衛兵たちの注意などもはやそこにはなく、闇に潜んで跳ね橋をにらむ人影になど気づけるはずもなかった。




――――――――――――――― 



城の外で騒ぎが起きる少し前、1人を除いてこれから火事が起きるとは想像だにしていなかった。

そもそも、神でもないかぎり自然に起きる火事などを予期できるはずもないのである。

むろん、ロイスも神ではないので未来を予期するなどはできるはずもない。

これから城外で起こることの些末はつまりはそういうことになるのである。



王族や貴族関係なく寝しずまる夜、ロイスは屋敷からふらりと1人抜け出そうとしていた。

スレインが城内で自由にさせるわけもなく子飼いの騎士を監視役として屋敷の前につけていた。

スレインはロイスが一人で暴れまわった所で、自らののど元である宮殿を抑えられるはずもないと高を括っていたため、多くの人員をそこにさくことはなかった。



「ロイス様いかがされました?」


ふらふらと外に現れたロイスを騎士が見逃すはずもなく訝しげな表情を浮かべ恐る恐るといった様子で声をかけた。



「いや、たいしたことはないさ。少し眠れなくてね。」



腰の剣に手をあてがって警戒している様子の騎士を見ると、敵意はないよといった様子で親しげに声をかけた。

人間とは不思議なもので、特別嫌っている人間でもないかぎり友好的に接せられると警戒心を少なからず弱めてしまうものである。

加えて、ロイスは王族でありながらパレスの砦を守るこの国の英雄である。

スレイン側につく騎士の立場上、敵ではあるのだが、国を守る騎士として憧れや尊敬の感情を抱く人間に親しげに声をかけられてなにも感じないはずはなかった。

騎士の警戒心が和らいだ証拠に、先ほどまで剣にあてがわれていた右手はもうすでに腰のあたりをさまよっていた。



「砦に残してきた部下が心配でね。ほら、バレルのやつらはしつこいからさ。もし、私がパレスにいないと知られれば、強行軍を編成してでも攻めてきかねないからね。」



そういって作ったような笑顔を浮かべるが、どこか疲れている様子がうかがえて、騎士は同情の気持ちを抱かずにいられなかった。とても国の英雄とは思えないような疲れたロイスの動向から目が離せなくなっていた。



「今日は、月がきれいだ。少し眺めていようかな。」



騎士はつられるように空に浮かぶ月を見上げた。

ロイスの左手は深い闇の中に、ぽつんと浮かぶ月を指していて、そのときの彼はどこか儚げであった。



騎士の目線がロイスから月に逸れたとき、月の光を反射した銀色の何かが彼の、のど元をブシュっという音とともに通過した。

真っ赤な血をのどから吹き出し、声を上げることも叶わないまま兵士は倒れた。



「ひゅ、ぶぁ、な、な、なんで・・・・」



騎士は右手に抜身の剣を持つロイスを見つめて、断末魔の叫びすら上げられず息絶えた。



「ごめんね。ここで、君に叫ばれると困るんだ。君ごときのために俺はもう止まれないんだ。」



剣にわずかに残る血のりをぬぐって、城門の方へ一歩一歩進んでいった。

その時のロイスは人をぞっとさせるほど冷淡な顔をしていた。



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