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キングズマン  作者: 凡人
王の誕生
4/6

4

宮殿内の一際贅沢な部屋にスレイン公爵と二人の男が見るからにすわり心地の良さそうな椅子に座り机を囲んでいた。



「何度見ても、英雄ロイス辺境伯が頭を下げて懇願するのは気持ちがいいものだな。」



大広間で見せた表情とはうって変わり恍惚とした笑みを浮かべる。

もはやこの国では目立って逆らう者などいなく、自分の唯一と言ってもいい目の上のこぶである人間があのように人の前でみじめに頭を下げる姿は彼にとって至福のものだった。


自分の力をして絶対に叶わないような相手ならば懇願して命を乞うのも悪い選択ではない。

だが、ロイスの立場であのように振る舞ってしまえばスレイン公爵には敵わないと認めているようにしか周りの者には見えないだろう。中立の立場であった貴族達もロイスが怖気ついてしまえば身の保身のためにもスレイン公爵側につくしか選択肢がなくなるのである。

事実、ロイスが王都訪問を始めてからスレイン公爵の力はさらに増していった。




「あれでは、私にもう敵わないと言っているようなものではないか。最初はなにかの策略か演技かと思ったが、なにも網にかからないのだろう?ヴィルマ卿、ヴォクレール卿よ。」



ヴィルマ卿と呼ばれた小柄で非常に細く、見るからに病弱そうな男と、ヴォクレール卿と呼ばれる筋骨隆々でいて体の所々に傷があるいかにも歴戦の戦士といった風貌の男はスレインが宰相となり今のように絶対的地位を築く前から彼に仕えてきた部下であった。

そのため、彼は数多の部下の中で最も彼らを信頼していた。

他の貴族は、今はスレインが力を持っているから味方についているが、自分より力を持っている人間が現れたらなんの迷いもなく裏切るだろう。貴族とはそういう人種である。

生き残るためならば裏切りなど実に造作もないことなのだ。



「はい、ここ数年のロイス辺境伯と私たちの陣営に加わっていない敵となりうる大貴族との間で金の動きなどないか調べていましたがそのようなものはありませんでしたね。パレスの砦に至っても矢や剣、食料に至っても申告の通り、十分にあるとは言えません。」



「ごくろうヴィルマ卿。では、やはり他の貴族と組んで反旗を翻すというのは考えにくい線かな。それにしても、消耗品くらいいくらでも調達できると思ったがそこまでのツテも金もあの若造にはないのか。」



ヴィルマ卿の報告を聞いて自分の警戒していた人間がそんなものなのかとその程度なのかという疑念はなかなか解けなかった。



「私の方は、パレスの砦の兵の調査を行いましたが現状2万人超の兵を維持しております。数年間あの地で戦線を経験している以上、ここにいる兵よりもはるかに屈強であることは否めないでしょうな。まあ、全軍で王都に攻め込まれたら、まずひとたまりもないものと思われますな。」



「まあ、そんなことは絶対に起こり得んがな。」



「はい、おっしゃる通りです。まず、二万の兵で攻め込もうとするならパレスの砦をその間に失うことになります。さすがに辺境伯もそこまで愚かではありますまい。パレスの砦を維持しながら王都を攻め落とそうとするのはあの程度の兵数と将ではまず不可能でしょうな。」



王都の兵の数とパレスの砦から動員できる最大の兵の数、双方の騎士の数や王都の防衛設備など様々な条件を頭の中でめぐらせ、ヴォクレールの言うとおり無理だろうという結論にいたりスレインは満足げニヤリと笑った。



「ですが、アルバート・リトラー公爵がご助力されるとなると非常に厄介なことになるかと・・。」



「あいつがロイスに味方すると言うのか?

ありえん、あいつは今の王にも従わず、私や他の貴族にも従おうとしない。あやつはまだ先代の王の幻想を追いかけているのだ。」



ヴォクレールの発言に気を悪くしたのか珍しく怒りを露わにし、気持ちを抑えるようにして下唇を噛んでから深く息を吐いた。

スレインの様子を見て、まずいと思ったのか申し訳ないといった様子で頭を下げ押し黙った。



「よい、お前は進言しただけだ。そもそも、ヴィルマの調べでもそのような動きはないとあるのだ。そのようなことはない、そのようなことは起こり得るはずがないのだ。」



自分に言い聞かせるようにして、自分の前に立ちはだかるロイスとアルバートの幻影を振り払う。

事実とは異なる幻影におびえるのは臆病者がすること弱きものがすること。

そんな幻想など、憎き二人を始末することで払ってしまえばいい。

今までそうしてきたように逆らう者はなんであろうと処刑台に送るのみである。



「ヴィルマ、ヴォクレールよ、よく調べてくれた。あとはロイスが王都にいるときのみ警戒すればもはや恐れるに足らんな。」



「はい、いつものようにロイスの一団には監視の兵を数名つけていますので問題はありません。城内の騎士も普段より人数を増やし彼の屋敷の周りを数人に監視させています。今さらですが城内の衛兵は私とヴォクレールの私兵をあてがっていますので問題ないかと。」



ヴィルマは確認するように一つ一つ警戒するポイントの対策を述べていく。

スレインがわざわざ指示する必要もなく、ヴィルマやヴォクレールは自ら考えスレインの欲している行動を即座に起こす。ここまで優れている忠実な配下がいることが誇らしい一方で何故ここまで優れた人間が私の配下になるまで埋もれていたのかわからなかった。

今の権力や金を持った自分に媚び諂うために有能な人間をあてがうのならばまだわかる。しかし、自分の若かりし頃、権力や金などを今ほど持っていなく、くすぶっていた、野心を煮えたぎらせていたころに自分を手助けする貴族などいるはずがない。もし、そのようなことをしたら、ただ新たな政敵を増やすことになるだけである。

考えれば考えるほどなぞは深まるが、自分が幸運だったとするならば説明は十分それでつくのであった。

権力、金、配下を手にし、国の政を手中に収めた彼にはもはやオスティア王国の宰相としての姿など微塵もなかった。



――――――――――――――――――― 



宮殿の大広間からスレインと王が退出したのち、ロイスは普段と何一つ変わらない様子で大広間をあとにした。

王である父をないがしろにし、自分こそがこの国の頂点だと言わんばかりの不遜な態度にいらだつわけでもなく、

大広間で貴族の面前で頭を下げさせられたことに顔を真っ赤にすることもなかった。

まるで、先ほどの会談など自分にとってはどうでもいいことのようですらあった。

その平静さがえも言われぬ恐怖を従者に与えた。




「おい、ロイス、実の兄になんのあいさつもなしとはおまえはいったい何様のつもりだ。」



宮殿から出ようと廊下を歩いていると、瞼・頬は自らの肉の重さで醜く垂れ下がり、服のうえからでもたるみきった体を容易に想像できるほど肥えた男が見るからに不機嫌そうな様子で待ち構えていた。

にわかには信じ難いがこれがロイスの実の兄、ジョセフ・ハインリッヒである。




こいつはこの国がこのような状況にも関わらずよくもまあここまで家畜のように肥え続けられるものだと呆れてものも言えなかった。



「なんとか言ったらどうだ。前から頭の悪いやつだとは思っていたがついに言葉すら忘れたか?」



次の王になる男がはなつ言葉とは信じがたい悪態が次々と飛び出すが、そのような実のない言葉がロイスに届くはずもなく虚空に消え去っていった。



「申し訳ありません。少し考え事をしていました。」



「ふんっ、私は父さまがなぜお前のような男にパレスを任せたかわからん。

私が王になったらお前のようなものなどを辺境伯に取り立てることなどまずせんがな。」



顔に汗をにじませ、王はなにもわかっていないといった態度を示し、自分ならばロイスよりももっとましなものに任せると息巻いていた。

もちろん、ロイスの兄であるジョセフにパレスがどこまで重要な土地であるかなどわかっていないし、ロイスの代わりにだれが適任であるかなどわかるはずもなかった。

そもそも、スレインによって贅の限りを尽くした食事や美しい女をあてがわれて見事に絵にかいたような愚かな王子に仕立て上げられたジョセフには国の政策も国の人材もなにもかもわかるはずはないのである。

それでも、わかりもしない国の政策に口をだすのは弟よりも自分の方が優れているという自己顕示欲の現れであった。


ジョセフは結局何がしたいのかわからなかったが、そのあともこころここに在らずといった様子のロイスにただただ悪態をつき、それに満足すると重そうな体をゆすって自室に帰っていった。




傀儡の王の次が無知な王となれば王国としての未来は閉ざされたようなものだろう。

ハインリッヒ6世は貴族に好きなようにされている愚かな王かもしれぬが自分の至らなさを自覚していた。

しかし、ジョセフはというと自分の無知すら自覚できないほどの痴呆である。

自分の至らなさを理解しているものと自分の無知にすら気づかないものではどちらが愚かな王になるかは火を見るより明らかだった。

今よりさらに王の力が弱体化していけばもはやそこはすでに王国ではないだろう。

そもそもこの国がほかの国に併合されずにそこまで生き残れる可能性などどれほどあるのかはなはだ疑問ではある。



この親子二代にわたる愚王の形を作り出したのは紛れもなくスレインであった。

ハインリッヒ6世を傀儡にした手腕ももちろん見事であったが、それだけでは満足することはなく次代の王まで愚王に仕立て上げる狡猾さには他の有力な貴族もただただ舌を巻くしかなかった。



オスティア王国はもはや風前の灯であった。

隣国に迫られる砦はほぼ孤立無援、国内では王の力は停滞の一途を辿っていて貴族の傀儡のようなもの、次代の王は無知な愚か者、民は重い税と先の見えない戦乱の世に辟易としていた。

絶妙なバランスで保たれているがどこか少しでも歯車が狂えば、この国はもう砂山が崩れるかのごとく一瞬で跡形もないだろう。



この国を救うのは常人の範疇に収まる人間ごときではどだい不可能なことである。


怪物は常人には想像すらできない計画を描いてのけた。

目に見えるものだけではない、敵の情報、味方の情報、人の心理、知識、あらゆるものをもって描いた未来は彼が怪物と知らしめるのに十分すぎるものであった。


一夜にして彼以外想像だにできない変革はなるのである。

その夜がオスティア国を導く超越者 キングズマン の誕生を国中に伝えた。



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