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キングズマン  作者: 凡人
王の誕生
3/6

3


ロイス一団は城壁の前に立ち跳ね橋が下がってくるのを待っていた。

跳ね橋付近には衛兵が数人いて城に入ろうとする人に検問をしている

ここで、何か不審な点でもあれば城の中の衛兵が跳ね橋を降ろさないようになっている。

加えて、跳ね橋の近くには兵士の詰所があり、昼夜関係なく兵士が控えているため、

跳ね橋の付近で騒ぎを起こせば詰所からぞろぞろと衛兵がやってくるのである。



衛兵は不審なところがなにも見つからなかったことを確認して、跳ね橋を降ろす指示を出した。

ロイスは馬を降り、数人の護衛のみを連れて城の内部に進んでいった。

城の中に入れるのは用事がある当人とその護衛少数のみである。

1000人もの兵を城の中に入れたとして、もし突然反旗を翻されたとしたら、いくら衛兵や貴族の子飼いの騎士たちがいたとしても王や貴族の命はひとたまりもないであろう。

城の中に多くの兵を入れさせないようにするのは賢明な判断である。


そして、ロイスが抜けた一団はカイルとともに用意されていた宿泊所に向かっていった。



跳ね橋を渡りきると、すぐに引き上げられた。

こうなってしまえばもう城壁の外側からはなんの手だてもできない。

数千の兵を連れてこようと、ちょっとやそっとでは城の中にすら入れないのである。

たとえいくらロイスの剣の腕がたつといっても場内にいる騎士や兵士たちに囲まれて一網打尽なのである。

城内で普通にさえしていればもちろんそんなことにはならない。

そのような場合になるのは剣を取って暴れようとしようとする者が出たときのみである。

しかし、さすがに自分を含めて五人にも満たないような状況でことを起こそうとする愚か者は過去にはいなかった。

ロイスももちろんそのような可能性の低い賭けをするつもりは毛頭なかった。



ロイスと従者たちは城の中を衛兵に先導されながら進んでいった。

幼少のころ城に住んでいて、そのころと内部はほとんど変わらないのだから案内など必要はないのだが、余計なことをされても困るので内部を知っているか知らないかに関わらずこのような案内されるのである。

城の入り口、奥に進むにつれて屋敷の格が上がっていき、最も奥に王の住む宮殿がある。



城の外の屋敷と城の中の屋敷では根本的に作りが違った。城の外の屋敷は限られた土地に居住性と価格を考慮したものを選ぶが、城の中の屋敷はまず豪華さ、壮大さを重要視していて居住性など二の次となる。

屋敷というのは自分の財力・権力の大きさを他者に示すための道具であり、

これだけ立派な屋敷を立てることができる人間に逆らうのかと他国の使者や身内ですら威嚇しているである。




城の入り口から15分ほど歩くと、ようやく宮殿がロイスたちの目の前に広がった。

城の中の屋敷の中でも宮殿はさらに異質である。花々が咲き乱れ、庭師にしっかりと管理されているだろう木々、美しい池、それらすべてが調和された庭がまず目に映った。そして真っ白な石造りの道を歩いていくと巨大な白亜の宮殿がたたずんでいる。金などを使った目にも鮮やかな豪華絢爛なものではないが真っ白で美しい宮殿は美しい庭とあいまって見る者の足を止めさせた。

ロイスはこの宮殿を見ると今は亡き先代の王を思い出し、悲しいような、懐かしいような表情を浮かべるのだった。



「ロイス様、私たちはここまでになります。」



案内をする衛兵たちは宮殿の入り口まで来るとお役目御免となり、ここで王との会談が済むまで待つことになる。そして、再び城壁の入り口まで案内することになる。ロイスの場合は城の中に屋敷があるのでそこまでの案内になる。



「ありがとうな。ほら剣忘れてるぞ。」



ロイスとその従者は腰にかけている剣をはずして衛兵に渡した。

これから、宮殿に入り王と直接会談するのというのに帯剣認められるわけはなく本来は衛兵が預からなければならない。

宮殿内の会談のための大広間には騎士が在中しているが決死の覚悟で来られればどうなるかわからない。限られた人しか入れない宮殿内が一番危険なのである。

にもかかわらず衛兵たちは剣を預かるのを失念したのである。

しっかりやってくれよと衛兵の肩をたたいて王宮に入っていた。

その日はさほど暑い日でもなかったが衛兵は額や頬にじっとりと汗をにじませていた。



数百人は入れるであろう大広間にてロイスは左ひざをたて、もう片方の膝を地面につけ王の到着を待った。

数分ほど待つと、現オスティア国王、チャールズ・ハインリッヒ、ハインリッヒ6世が従者を従え広間に入ってきて、玉座に腰を下ろした。



「ロイス・ハインリッヒが参りました。お時間をいただき心より感謝いたします。」



「よい、頭をあげよ。」



ハインリッヒ6世は40代に入ったばかりではあるが髪はすでに白くなり始め、顔にはしわが目立ち非常に疲れているように見えた。

昔と変わらず優しい目をしていたがまたずいぶん年をとってしまわれたとロイスは唇を噛んだ。

40代といえば体力は徐々に落ち始めているとはいえまだ老け込むには早い年齢であるのだが、ストレスと疲労のせいで誰の目から見ても年齢以上に老けて見えるのは明らかであった。

そして、その苦労の理由を知っているだけにロイスは自分の父を不憫に思った。



「ロイス第二王子様、いや、今回はロイス辺境伯でよろしいですね。

王さまとて暇ではないのでご用件を手短にお願いできますかな?」



下衆な笑みを浮かべてロインを見下すように見てくるのは玉座のもっとも近くに控えているはスレイン・スチュワート公爵であった。

白髪が混じったくすんだ金色の髪、鋭い蛇のような目つき、血色の悪い肌、スレインはこちらをあざ笑うかのように薄い唇を湾曲させた。


この男は国の宰相であり、かつこの国でも有力な貴族であるので目立って彼に反抗するものなどもういなかった。

否、もうすでに親王派閥の貴族たちはあらぬ疑いをかけて粛清されてしまっていた。



「スレイン卿、良いではないか。わざわざ、パレスから来たのだ。そうせかすでない。」



彼は自らの粛清の手を逃れ、かつ国内で英雄視される立場を手に入れたロイスが憎くて仕方がなかった。


その気持ちは嫉妬からくるのではない。

貴族だけではない、王や次代の王ですらもうすでに自分の発言を無下にはできないのにこのような若造ごときを亡き者にできないという現実が彼のプライドを刺激していた。



パレスの砦が落ちるとまずいのはわかっている、自分に利が少ないとわかっていてもなお、憎いロイスの足を引っ張りたくなってしまうのであった。

その結果、ロイスがアルカスに度々来るようになったのだが、これをスレインはしめたと思っていた。

今、殺してはパレスの砦がどうなるかわからないため流石に手出しはできないが、ここでは不要となればいつでも殺せるのである。

パレスにいてはさすがに彼の力も届かないが、王都アルカスそれもこの城の中では王とて、貴族とて自分には逆らえないという自信、城の中でなら神にすらなりうるという過信があった。


事実、ハインリッヒ6世はすでにスレイン公爵に逆らう力など残っていなく、もはや傀儡であった。

城内の貴族がほぼすべてスレイン公爵側についているのだからどうしようもないのである。


税を上げようが、国庫を私的に流用しようがそれを咎める者はもうここにはいない。

民の不満が募りに募っていることはだれの目から見ても明らかだった。

そして、スレイン公爵はいよいよ不満が爆発する寸前で捨て駒にすべての罪を着せて時間をかせぐのである。


このような状況を作り出した自分の不甲斐なさ、偉大な先代の王への申し訳なさで心を痛めない日はなかった。



「王様お心遣い誠に感謝いたします。ですがスレイン公爵のおっしゃる通りですので今回の用件のみ伝えさせていただきます。」



「よい、述べよ。」



「度重なるバレル帝国の攻撃によってケガを負っている兵は多く、剣や矢、食料の消耗も非常に激しく、残りが心もとありません。ですので、砦の負傷兵5000人を新手の兵士に変えていただきたいのと、消耗品の補充をお願いしたいのです。」



「うむ、要求はあいわかった。どう思うスレイン卿?」



王に依頼するという形をとっているが是か非か決めるのはスレイン公爵となっている。



「ふむ、そうですね・・・・。少々それは困難だと。」



わざとらしく考えたそぶりを見せるがロイスからするとこう返ってくるのはいつものことなのでなんということもない。むしろ毎回ここからスタートなのである。



「確かに、パレスの砦は非常に重要な拠点となりますが兵をこれ以上送るのは問題外ですね。5000人の新たな兵と言いますが、どこから補給するというのでしょうか?

この国のほとんどの兵はパレスの砦、およびもう一つの砦に費やしているのはご承知でしょう?

もしや、王都の兵と交換するなどとはいいませんよね?ここは野戦病院ではないのですよ?」



問題外と言わんばかりにまくし立てるように自分の理を主張する。

確かに、スレイン公爵の言う通りではあるがパレスの砦が抜かれたら、この国に防ぐ術はない。

王都は野戦病院であろうとなんだろうと役目を果たさなければならない。

スレイン公爵とてそれはわかっている、わかっていて増員を行わないのである。

戦争を通してロイスの力や威光を徐々に削っていこうという算段なのだ。



スレイン公爵の言うことにも理はあるため簡単にそれを否定することはできない。

まあ、そもそも、ロイスは兵の増員など本気で望んでなどいなかったのでこちらの要望はどうでもよかったのであった。



「スレイン公爵のおっしゃる通りでございます。ですが、せめて,せめて消耗品だけでも補給してもらえないといかんともできませんのです。」



申し訳なさそうに頭を下げて懇願するロイスを見下してスレイン公爵はだれにもわからない程度の笑みを浮かべた。

やはり、こいつ程度では私の足元にも及ばない、英雄と言っても所詮ガキはガキだまだ若造ではないか。パレスの砦ではお山の大将かもしれんがここでは王や他の貴族と大差ないのだと思うと笑みをこぼさずにはいられなかった。



「ふむ、そこまで言われると補給だけは善処いたしましょうか。ですが、お分かりのとおり決して国庫は潤っているわけではありませんので辺境伯のご要望通りのものをというわけにはいきませんのでご容赦ください。」


「ではスレイン卿そのように頼んだぞ。」



「はい、感謝いたします。」



自分に逆らう人間がなすすべもなく頭を下げてくるのは何度見ても気落ちの良いものである。

会談が終わるとロイスが頭を上げるのを待たずしてスレイン公爵は意気揚々と大広間を去っていった。


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