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キングズマン  作者: 凡人
王の誕生
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1

周囲に山々がそびえたち鬱蒼とした森林が広がる。草木は深い緑色に染まっている。季節は夏なのであろう。

そんな山々の間に縫うようにして整備された街道が広がっているのが目にとまる

その、街道を歩く人たちの往来を妨げるかのごとく高さ10メートルはあるであろう石造りの壁が存在した。

その壁のような門は街道を完全にふさぐようにして鎮座していた。


門をくぐらずに、つまり街道からそれて渡ろうにも崖のように切り立った山肌があらわになっている。

そして、たとえ街道をそれて山の中に入れたとしても草が生い茂っていて、地面が凸凹で楽に通過できそうにもない。



つまり、この門を通る以外は大軍がオスティア王国に入る方法はないのだ。

この門こそが他国の猛威を防ぐオスティア国の砦であり、パレスの砦、パレスの壁などと呼ばれている。

パレスの砦は街道をふさぐようにして城壁が存在し、その内側に兵士たちの居住空間がある。

石作りや木製の家が密集して立ち並び2万人超の兵が居住している。

そして、石造りの市壁がその居住区間を取り囲んでいる。




この砦の屋上の開けた場所で壁にもたれかかりながら雲一つない真っ青な空を見上げる精悍な顔立ちの

金髪の青年がいる。鼻筋が通っていて鋭い目つきの中にも優しさを感じさせる。

190㎝、90kgはあろう巨躯であるが決して太っているわけではない。

腕は丸太のように太く、肩周りもがっちりとしていて見事な逆三角形である。

脂肪を削り落とし、筋肉で研ぎ澄ませた体はまさに鍛錬とここまで歩んできた道の険しさを感じさせる


20歳そこらの青年には年齢とはとても不釣り合いな威厳のようなものすら感じさせられる。

その青年の名はロイス。むろんただの青年ではない。彼はオスティアの双璧と呼ばれ兵・民衆たちの信頼・尊敬をうける若き英雄である。

そして、彼こそがこの国、いや世界を変遷させていく者になるということは周りの人間は知る由もない



「なあ、カイル。俺はここからの景色が結構好きなんだよ。バカどもがたびたびちょっかいかけてくるし、

飯も大してうまかねえんだけど、ここは静かでいい。王都はうるさくてかなわないよな。」



ロイスはカラカラと笑いながら空を見上げる。

そして、ロイスの傍らに控える青年カイルが苦笑いを浮かべている。

カイルはロイスに比べると背丈は小さく170cm程度で体系も細くも太くもない平均的なものである。

目が細く、柔和な雰囲気をまとう純朴そうな青年であう。

国のみんなからの期待を一身に背負う青年が心を許して冗談を言える人間は多くない。

このように、ふざけたことを言えるカイルという存在は貴重であり、ロイスの様子からも彼が信頼されていることもわかる。



「ロイスさま、ここを気に入っているのは結構なんですがここにこれ以上留まられても困るのですが・・・・」



カイルの言う長々とどまられると困るというのは屋上でずっとくつろいでもらっては困るという意味ではもちろんない。ロイスほどの人間がこのような場所でくすぶってもらっては困るという意味を含んだものである。



その意を汲んでかは汲まずかロイスは先ほどと変わらない様子で、わかっているよとだけ答えて手をひらひらと振りながらその場を立ち去り、階段をつかって砦の中に入っていった。



ロイスという人間はカイルの言うとおりこのような前線にいるような人間ではない。

オスティア王国の第二王子であり、血筋的にもこの国ではこの上ないものだが、しかしカイルの言いたいことは血筋が良いからここにいるべきではないという実にくだらないことではない。


カイルの発言の所以はロイスの才覚によるものである。


ロイスには武の才能があった。もちろんその才もこの国では随一のものである。

しかし、その才もこの世界に散らばる四剣に比べればおとるであろう。

カイル自身は見たことはなかったがみたことのあるという商人に聞く限りとても人間のようではないという話しすら聞こえてくるのだ。


しかし、そのような四剣の話しを聞いてもなおロイスが彼らより才覚で劣るとは微塵も思わなかった。

もちろん、自分の上官であるため身内であるための補正は入っているかもしれないがそれを考慮に入れてもなお

カイルの目から見たロイスの才はすさまじかった。若干20歳そこらで民に英雄としてあがめられる圧倒的なカリスマ性にくわえて、先を見据える眼力が他者とは隔絶して優れていた。

さきほど、彼の目は空を見据えていたが、もっともっとはるか遠く凡人では想像もつかない先まで見据えているようで畏怖の念を抱かずにはいられなかった。



カイルは純粋にロイスのことを尊敬していたが、それと同時に彼のことを知れば知るほどロイスを敵に回してはならないと悟った。

カイルはロイスのそばで彼の盾となり、剣となるために自らを鍛えてきたのである。





パレスの砦の中、カイルを含めた男女四人がロイスの部屋の円卓の周りに立っていた。


ロイスの部屋は質素で地味な部屋であった。

砦の中にある部屋と考えれば十分な広さであるし質素ではあるが綺麗で機能性には優れていた。

そのためこの砦の最高責任者である人間には十分と言えば十分なのだが、王族の血が流れるロイスにはいささか不釣り合いのようにも感じられた。



過去、部屋の改良の進言がいくつもあったがロイスは王族の血など関係ないと言わんばかりに部下たちの意見を退けた。

郷に入っては郷に従うのように自分の権威を振りかざさないところも一般兵士達には好感を抱かれていた。




「カイル、イリア、クリストフ、レヴァ爺よく来た、待たせたね。楽にしていいよ。」



そういって四人が待つ円卓に微笑みながら腰を下ろした。


ロイスは普段、兵士たちの前ではそこまで微笑むことはない。

それはロイスが特別そうであるというわけではなく、兵士たちの前に立ち指揮を執る時にそのような姿を指揮官が見せないのが普通というただそれだけのことである。


ただ、ロイスの部屋にこうやって個人的に呼ばれる四人に対する信頼は厚いだろうという事は容易に想像がつく。




ロイスが座ったのを確認すると四人は所定の席に腰を下ろした。



「いえ、今ちょうど四人が集まった所でしたのでロイス様を待たせることにならなくて良かったです。」



そういってカイルは呆れたようにしてイリヤとクリストフの方をちらりと見た。

燃えるような真っ赤な髪、肌は色白、きれいな眉とぱっちりとして少し吊り上った目からは

意志の強さや自分への自信がうかがえる。だれが見ても美しいと思わせる女性である。

体の線が細くとても武の世界に身を置いているようには見えないのだがロイスの信頼を得るほどの人間なのだ、

見た目に反するような活躍をするのであろう。




「なによ、間に合ったからいいじゃない。

それに私には女としての準備があるんだから、このバカとは同じにしないでちょうだいよ。」


キーっとまくし立てるようにしてカイルに反論してそのあとクリストフを指さして不満をあらわにした。



「なんで、私だけなのでしょう。イーナさん、あなたも遅れたんだ、自分の正当性のみを主張するのはいかがなものかと思いますよ。それほどいうのでしたらさぞかしたいそうな理由で遅れたんでしょうね。」



クリストフはなんでバカ扱いされなければならないんだと目を丸くしやれやれといった様子で首をふり、自慢の長い銀髪をなびかせた。

長い銀髪に長身で細身、鼻が高く目が大きくぱっちりとしている。着ているものも一般の兵士たちの給与では到底購入できないような上質なものを身に着けている。まとっている雰囲気もギラギラした兵士のようなものはなく、物腰も穏やかである。どこから見ても貴族の子息のようにしか見えない男である。






「わ、わたしはロイン様に御呼ばれしたんですから失礼が合ってはいけないと思って女性として・・・・・・・・ほら、いろいろ身だしなみをととのえていたんのよ。」



顔をほんのり赤く染めてちらっとロインを伏し目がちに見て恥ずかしそうとも申し訳なさそうとも取れる表情で言った。


いや、どっちみち会合に遅れそうになったんだから失礼なのではないかとカイルは思ったが、まあそんなことはどうでもいいかと思い言葉を飲み込んだ。




「イーナ、クリストフ、遅れそうになっただけでなくロイス様の前で失礼をするでない。それに、カイル、こやつらの手綱をしっかりと握らなければならないのはおぬしであろう。この様子ではまだまだわしも隠居はできなさそうじゃな。」



やれやれといった様子でレヴァンドフは自慢の白い長いあごひげをさすった。

レヴァンドフはロイスにレヴァ爺と呼ばれていてここにいるメンバーの中で最もロイスとの付き合いが長く、

彼の才能にいち早く気づかされた人間である。

60歳近い彼はすでに髪は白くなり、肌も昔のように張りのあるものではなくしわくちゃで、力も全盛期はとうの昔に過ぎ去っている。しかし、顎から垂れ下がる自慢の美しいひげ、老いてもなお灯の消えない眼は威厳すら感じさせる。怒鳴り散らすでもなく静かに放たれる彼の言葉は若い三人を圧倒するのに十分すぎるものであった。




場を支配するのは沈黙。

レヴァンドフが作り出したこの雰囲気は若い三人にはどうもできない。

イーナ、カイルは気まずそうにレヴァンドフの方を見れずに下を向いている。

クリストフは特段悪びれる様子もなくひょうひょうとした様子で正面を見据えている。



「レヴァ爺、そんな怒るな。まだ、こいつらにはレヴァ爺の代わりはつとまらないから心配するなって。まだまだ、俺のために働いてもらうつもりだからさ。」



そういって、笑いながらレヴァンドフの肩をポンポンと叩く。



「もちろんそのつもりじゃが、いずれはこやつらにはわしを超えてもらわないといけないのじゃよ。そう考えると不安で不安で仕方がないんじゃよ。

まあ年寄りの心配症が出たと思ってください。」




ロイスは周りに支えてもらい今の地位に至るわけではない。

レヴァンドフがいるからこそのロイスというわけではないのだが、だからこそロイスを孤高の存在にしてはならないとレヴァンドフは思っていた。ロイスの才を存分に発揮できるような良き部下や良き理解者が必要なのである。

若い三人にはそうなってほしかった。それゆえの厳しさであることは三人もわかっていた。




「まあ、雑談はそろそろ終わりにしよう。今日、お前らをここに呼びつけたわけを話そうか。」



ただその一言で空気がびりびりとしびれだすように四人は感じた。

ロイスは先ほどの穏やかな、優しそうな雰囲気とは変って、表情は消え、冷たく、周りの人間が恐怖を感じるような雰囲気をまとった。


四人は真一文字に口を結び、その目でロイスの口から放たれる言葉を待った。




「やはりこの国はもうだめだ。俺の手で一度滅ぼそう。」


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