第8話
ウィーン ウィーン ウィーン あと25枚
ウィーン ウィーン あと10枚
ウィーン あと5枚
4
3
2
あっ、止まった。
くそぅ、残り1枚で用紙切れって…。
「ほら、これ使え。」
ホント突然現れる人だな。
コピー用紙の在庫はどこにあるのかしら?と、キョロキョロしていたら、目の前にドンっと再生紙の束を置く早瀬氏がいた。
「ありがとうございます。」
お礼を言い、紙を機械にセッティングする。
「結局、身体は大丈夫だったのか?」
「はい。」
「そうか。まぁ、俺の方が大丈夫じゃなかったんだけどな。ハハハ。」
何があったのかは知らないが、苦笑いを浮かべながら「じゃあな」と言って自分の(おそらく)デスク(場所は知らない)の方に行ってしまった。
あの日の夜、お風呂の鏡で確認したらやっぱりお尻に大きな青アザができており、案の定その夜はうつ伏せで寝る羽目になった。
眠りにつく瞬間、この手が感じた温もりを消したくなくて、もう片方の手でそっと包みこんだのは私だけの秘密。
※ ※ ※ ※ ※ ※
今日は井上さんは出勤日のはずだけど、朝から顔を見てないなぁ。荷物はあるみたいだから、校内にはいると思うんだけど。とりあえず今の所は急ぎの用はないが、あのほっこり顔を見て安心したいというか癒されたいというか…、
バキッ!! ダンッ!
「っ!?」
何、何!?
急に大きな音が背後から、つまり例の死角スポット
から聞こえてきた。
「無くしただと!?ふざけんなっ!」
「ご、ごめん…、」
「あの人に知られたら、俺だってヤベーんだぞ!」
「……」
え~。なんかいつもとテイストが違うんですけど。
喧嘩?にしては一方的な感じだし、どうしよう、こんな事初めてで本気でどうしたらいいのか分からない!
ただアワアワしているうちに、いつの間にか喧嘩(?)は終わっていたようで、すっかりいつもの静けさが戻ってきていた。
そっと窓際に近付いてみると、おそらく殴られていた方だろう、かすかな呼吸音が聞こえる。
「だ、大丈夫?」
少し躊躇った後、でも怪我してるだろうし無視もできないなと思い恐る恐る声をかけてみた。
「!!」
相当驚かせてしまったのか一瞬息を飲む音がし、すぐにその気配はなくなってしまった。
しまった!誰もいないと思っていただろうに突然声をかけられればびっくりするに決まっている。しかも彼らは多分聞かれたらマズイ話をしてたっぽいし。
私は教師ではないし、たまたま生徒(多分)達の喧嘩を聞いていただけ。このまま知らんぷりしていようと、振り返りデスクに………、戻らず真っ直ぐドアへと足を向け部屋の外に出た。
「やっぱりいる訳ないか。」
事務室から出た私は奇跡的にも迷うことなく、さっきの場所に来ることができた。一応それらしき子がいないか周囲を気にしながら来たのだが、誰にも会うことはなかった。
「誰かお探しですか?」
いつの間に居たのか、右の耳の斜め上近くから掛けられた美声に一気に私の全身を痺れをが走った。