第6話
「好きですっ!付き合ってください!」
はぁ~、肩凝った。誰か揉んでくれないかなぁ。
「ごめん、無理。」
今までの職場には大抵、肩を揉み合うぐらいの同僚はいたけどここでは無理だ。元々肩が凝りやすい体質なので、今ではMAXでバリバリだ。
「理由を聞いてもいい?」
マッサージでも行こうかな、でも下手な店に当たったら最悪だし。口コミでも、あっ友達いない。
「別に」
友達がいないって言っても、ずっとぼっちだった訳じゃなくて、1年程前までは少ないながらも遊ぶ友達はいたのだ。しかし事情があって今現在はみんなと敢えて連絡を断っている状況にある。その辺りはまたいつか話すとして、そういえば『別に』っていうセリフと憮然とした表情だけで周りを凍りつかせた女優がいたな。あれ言われると本当に困るんだよね。
「他に好きな子がいるの?」
おお、この子がんばるな。でも彼の態度からしてこれ以上突っ込んでも良いことなさそうだけどなぁ。
「それあんたに関係ある?」
え~関係あるだろ!少なくとも自分に好意を向けてきてくれた相手なんだから、好きな子がいるかいないかぐらい教えてあげたっていいじゃないか!
「そんな…。」
「もういいだろ、俺戻るから。」
返事を待たずに離れていく足音が聞こえてくるが、もう1つの足音はしばらく聞こえてこなかった。
今日も相変わらず私の背中越しでは告白劇が繰り広げられていた。成功する時もあるが、やっぱり残念な結果な時もあるわけで、そんな時は他人事ながらも少し苦い塊が胸に落ちる。勝手に盗み聞きして勝手にセンチメンタルな気分に陥って我ながら飽きれてしまうが、それでも普段はブラックで飲むコーヒーに砂糖を足してしまう。
…今日はティースプーン2杯入れとこ。
高校生の恋愛なんて、と軽く言う大人もいるが彼らだって一生懸命恋愛しているんだ。ここで働き始めてからの半年間でそれがよく分かる。子供から大人へ成長していく途中の高校生だからこそ、今しか出来ない恋愛をしているんだ。
私は…?
ふと、頭を掠めたのはほんの1週間前、私の耳と腰に多大なダメージを与えたあの美声の主だ。
いやいや、あれは単にからかっていたに過ぎない。あんな真っ赤な顔でいたら、からかいたくなる気持ちも分かる。
いくら童顔とはいえあれだけ美形な上立ち振舞いも秀麗で、しかもあの余裕っぷりからしても私とは経験値が違いすぎる。立つステージが違うのだ。
『待ってます。』
……駄目駄目。
もう恋なんて、、、
怖い。
主人公の過去に何があったのかは、そのうち。