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第53話

遅くなりまして、すみません。

今、私達はダイニングテーブルに何故か横並びに座っている。

何故横並びなのかというと、東雲先生が私の手を離してくれないから。

そしてあのソファーには座りたくなかったから。

座る前に先生が「長くなるから」と言って用意してくれた紅茶を飲みながら先生が口を開くのを待っていた。


「……俺達が施設出身だっていうのは言ったっけ?」

「はい、あ、いえ、以前早瀬先生からお聞きしました」

「そうか蓮二に…、それじゃあ綾香の事も聞いた?」

「同じ施設出身という事と、あと…昔お付き合いしてたんですよね?」

「アイツ勝手に…!」

「ちなみにその話をしてくれたのは、東雲先生のキスシーンを見た後ですけどね」

「ぐぅっ!」


綺麗なお顔に似合わない変な声を出して東雲先生は項垂れてしまった。

苛めすぎかなと思って、繋いだ手をギュッと握り直すと先生は上目遣いで申し訳なさそうに私の顔を覗きこんできた。


ワンコがいる。


あまりの可愛らしさに思わず空いた手で先生の頭をなでなでしてしまった私は東雲先生のキョトンとした顔を見て、しまった!と思いすぐに手を引いたが、先生は「我慢してるんだから、そんな可愛い事しないでくれ」と苦笑いを浮かべていた。


我慢って!と何を我慢するのか考えたら顔が赤くなってしまい、恥ずかしくて私がそっぽを向いていると先生は静かに話し始めた。


「俺はね、はじめっから親に愛されていなかったんだよ」

「!!」


お互い視線は別の方向を向きながら、私は東雲先生の言葉を一言一句聞き漏らさないように耳をすませていた。だけど、しょっぱなからそんな悲しい事を話し出したので、ショックで言葉をなくしてしまう。


「俺の両親はねよくあるできちゃった結婚でね、今時珍しくもないんだけど、ウチの場合すでにお互いに気持ちが離れてしまっていたらしくて別れ話も出てた時期に母親は俺がお腹にいるってわかったらしい。母親は中絶しようとしてたらしいんだけど周囲からの説得に合って渋々籍を入れて俺を産んだんだ」


中絶、という言葉に私はビクッと反応してしまった

もしかしたら、先生のお母様が周りの説得に負けなかったら今先生はここにいなかったのかもしれないと思ってしまったから。


「大丈夫、俺はここにいるから。でもね俺はずっと何故堕ろしてくれなかったんだって思ってたんだ、あぁごめんね、そんな顔をしないで、今はそんな事思ってないよ」


顔を青くした私に目を合わせながら微笑んでくれた先生を見て、安心した私は空いた手を繋いだ手の上にはそっと乗せた。


「俺は赤ん坊だったから当然記憶なんてないんだけど、新婚生活は酷い物だったらしいよ。すでに心が離れてる二人だったから協力して子育てしようなんて考えもなくて、母親は泣いている俺の横で毎日違う男を引っ張りこんでは浮気を繰り返していたらしいんだ。父親の方も自分の子供なんて実感もなく、彼からしたら責任を取らされた結婚だという意識しかないから家にも帰ってこない。母親が赤ん坊の俺を置いて男と家を出た後もまさか俺が一人で放置されてるなんて思いもせずに他の女の家に入り浸ってたんだよ。結局近隣の人間の通報で命拾いしたわけなんだけど、父親からも母親からも引き取り拒否された俺は施設に送られる事になったんだ」


淡々と話す先生からは何の感情も窺えない。


「物心ついた時には親なんかいなかったし蓮二達がいたから寂しくもなんともなかったんだけどね、何故か俺女の子とだけは絶対に遊ばなかったんだよ。自分でもなんでかわからなかったんだけど、年々それは酷くなっていって思春期の頃には女の人は嫌悪の対象になってたんだ。後になって俺が施設に入る経緯を教えてもらった時『あぁ、なるほどね』って思ったよ。母親の顔すら覚えていないのにしっかりトラウマだけは植えつけられてたんだって理解したんだよ。理解したところで女性不信が変わるわけでもなく、……これは言いにくいんだけど、その…、俺は女性を性欲処理の手段としか考えなくなってしまったんだ」

「!?」

「ごめん、軽蔑したよね?あの時の俺はホントどうしようもない奴だったんだよ。言い寄られる事は結構あったから、まさに来る者は拒まず去る者は追わずで本当に人を好きになる事なんてなかったんだ。だけどそれも面倒くさくなってきた時、同じ様な境遇の綾香と付き合う事にしたんだ」


……二人は本当に付き合ってたんだ。


「綾香はね、義父の暴力が原因で母親は逃げてしまい、今度は残された綾香もまた義父から暴力を受けてたんだ

……それは性的な物も含めてね」

「!?」

「彼女の場合は男性不信に陥ってたんだよ、施設に来た時は男の子の側には絶対に近寄らなかったからな。でも何故か気づくと俺の後ろにいて、何か喋る訳でもなくただついて回ってたんだ。多分女の子に全く興味のない俺の雰囲気が逆に安心できたのかもしれない。俺の方も無視しててもいつもいつも付いて来られれば多少情も湧いてくるようになったんだ。綾香もあの容姿に寄ってくる男達の相手をいちいちするのが嫌になったんだろうな、俺達はお互い相手を他の異性からの防波堤にしようとしたんだよ」

「…………。」

「高校を卒業してから綾香に好きな人ができたって言われて、もちろん俺は祝福して送り出してやったよ。もともと俺達に恋愛感情はなかったからな」


だったらなんで―――。


「昨日綾香と揉めてた男とは最近まで付き合ってたらしいんだけど、別れた後もつきまとってくるって泣きつかれて仕方なく俺がまた防波堤になる事にしたんだ」


そんなの―――。


「俺と綾香が付き合ってるって噂をそのままにしていたのはソイツがどこまで監視してるかわからなかったからなんだ」


―――。


「……その、下着の事もだけど、あの時キスしていたのも綾香の悪ふざけというか、目が痛いって言うから診ようとした時にいきなり首に腕を回されて引っ張りこまれてしまって……」

「……なにそれ」

「ん?」

「何なんですか!勝手すぎますよ!悪ふざけ?冗談じゃないっ、梨元先生は東雲先生に甘えすぎなんじゃないんですか!?先生も先生ですっ、何でそんなに梨元先生に甘いんですか!そりゃあお二人の境遇には同情しますけど、だからと言って良い歳して何やってるんですか!!」


手を振り払って睨みつける私に東雲先生は茫然と固まってしまった。




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