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第52話

この部屋にはあり得ないはずの物体を見て、私の頭は完全にパニック状態になってしまった。


なんで東雲先生の部屋にブラジャーか落ちているの!?


「ま、真紀子さん!こ、これは、違うんです!」


焦って声を上げる東雲先生だったが、私が先生の上に乗っている状態なので起き上がる事もできず寝転がったまま必死の形相で弁明しようとしていた。

その先生に似つかわないあまりの慌て様に、不思議と私の頭が冷えてくるのがわかった。


「違うって何がですか?」

「そ、それは…その、おそらく綾香の物だと思います…」


綾香、か。

そうだ、梨谷先生の事を忘れていたな―――。


すっかり浮かれきった私は梨谷先生の存在を忘れていた。助けを求めた梨谷先生の元へ東雲先生が走り去ってしまったのは昨日の事なのになんで私は忘れていたのかな?

そういえば、梨谷先生は昨夜この部屋に泊まったんだよね。それなら下着が落ちててもおかしくないか、…………いや、おかしいでしょ。

一晩泊まっただけで、リビングの中央のしかもテーブルの下にブラジャーが落ちるような状況って何!?


……ああ、こういう状況か。


私は今の自分の体勢を思い出して一気に体の熱が奪われる感覚がした。

もしかしたら昨夜も東雲先生はこのソファーで自分の体の上に梨谷先生を乗せていたのかもしれない。そして、ブラジャーを取るような行為を―――、


「いやっ!!」


想像してしまうとここ(ソファーの上)にいるのが耐えきれなくなり私は東雲先生の上から飛び降りると真っ直ぐドアに向かって走りだした。


「待って!」


後ろからは東雲先生の呼び止める声が聞こえたが、一刻も早くこの部屋から出てしまいたかった私はリビングのドアに手をかけて開けようとするも、背後からきつく抱き締める腕にそれを阻まれてしまった。


「離して!」

「いやだっ!!」


なんとかその腕を振りほどこうと体を左右に振りまくったが、ガッチリと抱え込まれた東雲先生の腕の中から逃げ出す事ができない。


「頼む…、お願いだから、逃げないで……、どんなに怒っても詰ってくれても良いから、殴ろうが蹴ろうが好きにしてくれて良いから、頼む…俺の前からいなくなるのだけは、やめてくれ…」

「……………………」


私の体に回された腕は小刻みに揺れていて、先生の発する声は今にも泣いてしまいそうな程震えている。

私の方が泣きたいのにと思いながら何も言えずにいると、


「綾香とは何でもないんです!本当です、信じて下さい!俺が愛してるのは真紀子だけなんだ!!」


叫ぶように主張してくるのを聞きながら、私の心はどんどん冷えていくのがわかった。


「…何でもない人とキスできるんですか?」

「……は?キス……?」


覚えていないのか、それともとぼけているのかわからないが東雲先生の声から焦って弁明する言葉は出てこなかった。


「入学式の終わった後、保健室のベッドで梨谷先生を押し倒してキスしてましたよね。昨日もお付き合いしてるって梨谷先生が言ってましたし」

「!……それはっ!!」

「事実はどうあれ先生の私を好きと言ってくれた言葉は信じます。でも……、やっぱり私は自分1人だけを好きと言ってくれる人が良いです……」

「っ!!?ちょ、ちょっと待って!」

「……だから、私達…「駄目だ!!」……へ?」

「駄目だ!そんなの認めない!!俺は絶対に別れないからな!!言っとくけど俺が自分から人を好きになったのなんて今までも、そしてこれからもお前ひとりだけなんだよ!他の女なんか要らない、真紀子さえいればそれで良いんだよ…!」

「だったらなんで!…なんで、キスなんかしてたんですか……!」


先生の口調が大分乱暴になってる気がしたけどそんな事よりも気になるのは、そこまで私を想ってくれているのにどうして梨谷先生とキスなんかしてたって事。


「ごめん……、謝って許される事じゃないけど、別れる以外の償いならなんでもするから……、だから…」

「ねえ先生、私は謝って欲しい訳じゃないんです。梨谷先生の事が好きじゃないならどうしてキスしてたのか、なぜ付き合ってるって噂があるのかを聞きたいだけなんです。そこをはっきりしない事には結婚どころか一緒に暮らす事だって私には無理です。いくら先生の事を信じたくてもずっと心の奥に疑いの思いを持ったまま先生の横にいる事はできません」


顔が見えないおかげで私は正直な気持ちを流れるように話す事ができた。


「…………」

「…………はぁ、やっぱり今日のところは…、うぐっ!?」

「全部話します!話しますから、出ていかないで、」

「わ、わかり、まし、た、から、苦しっ、力を抜いてっ、」


何も言わない先生に焦れた私は少し時間を空けた方が良いかと思ったのだが、内臓が口から出るんじゃないかという程の締め技により私は再びリビングのあの忌まわしきソファーへと戻る事になったのだった。




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