第49話
「あの…、本当に良いんでしょうか」
「勿論です。さあ早く、響子先生に電話してお断りして下さい」
「はい…、あの、でもやっぱりまだ早いんじゃないかと……、」
「それでは聞きますが、何日後なら良いんです?二日後ですか?三日後ですか?そもそも我々は大人ですよ、愛する恋人が泊まる場所がないって言うのに何故他の人の家に泊まらせなければならないんです?それについさっき約束したでしょう、もう離さないって。嫌なんですよ、これ以上貴女が俺の知らない場所にいるのはもう耐えられないんです、わかって下さい」
「う、はい。そう、ですね。すみません、なんか緊張しちゃって…」
「嬉しいです、意識してくれてるんですよね?ふふ、安心して下さい、貴女の覚悟が決まるまで我慢してあげますから」
「!?」
か、覚悟って、我慢って、やっぱりアノコト、だよね。
私と東雲先生が?つまりそういうコトを…………、
ひぇっ!?ムリムリムリ!!
「……今、何想像してた?」
「ひゃんっ!?」
み、耳に息吹き掛けないで~!
「可愛い…。そんな可愛い声出して、俺の理性試してるつもり?」
だから耳元で喋らないでってば!
理性って!?さっき我慢するって言ったよね!
「せ、先生、とりあえず離れませんか?」
「!!」
すでに私の顔は真っ赤に染まっているのに、これ以上耳元で東雲先生の美声で喋られたら腰が砕けてしまう。だから、落ち着くためにも一旦体を離して適度な位置に戻りましょうという意味で言ったんだけど、先生は何を勘違いしたのか、再び私を抱き締めてくる。
「嫌ですっ、離れないって言いましたよね!」
「そ、そうじゃなくって…、せ、せんせ!くるしっ、」
「っ!すみません!大丈夫ですか!?でも貴女が悪いんですよ、離れろなんて言うから…」
「ごめんなさい、……って、そうじゃなくて!ここ外ですから!くっつき過ぎて恥ずかしいんです!!」
「ああ、なるほど。そんなの気にしなくても良いのに。それじゃあ早く俺の家へ行きますよ、そしてたっぷりイチャイチャしましょうね?さ、早く響子先生へ電話して下さい」
そして最初の会話に戻ってしまった。
一連の流れからわかる通り、私と東雲先生は互いに気持ちを打ち明けて晴れて恋人同士となり、そしてキ、キスをしてしまった(!)公園のベンチから未だ動いていない。
私はこの後予定通り響子先生のお宅に厄介になるつもりだったが、「ウチに来れば良い」と東雲先生の大反対にあった結果お付き合い初日から同居(同棲?)生活になってしまうみたいです。
「……もしもし、響子先生ですか?」
『もしもし、仙道さん?』
「はい、あの、今日はわざわざありがとうございました。それで、えと、その、今夜からの話なんですが、」
『わかってるわよ、東雲先生のお家に泊まるんでしょ?』
「えっ!?なんでわかるんですか!?」
『あっ、ほんとに?そっかー、うまくいったのね!おめでとう!でも本当に良かったわ、ヘタレの東雲先生の事だから、もしかしたらまたダメかと少しだけ心配してたのよ』
「ヘタレ…。」
『KENさんには私から報告しとくから、あなた達は思う存分イチャイチャしてなさい。それじゃあね、また飲みましょうね』プツッ!
「あっ!切れちゃった。せんせ…やんっ!」
「……終わりました?ちゅっ、ホント可愛いな~もう、ペロッ」
「あんっ、みみ、舐めないでってば…、もうっ、外じゃダメですって!」
「クスッ、わかりました。早く帰りましょうね」
――――しまった!
電話を切った途端頬やら耳やらにキスしてくる東雲先生に注意したつもりだったのに、私はどうやら墓穴を掘ってしまったようだ。
そこから先生の動きは早かった。
右手で私のキャリーバッグを持ち、左手で私の手を掴んで立たせるとそのまま指を絡ませるように握り直し、私を半ば引きずる勢いで歩きだした。
「ま、待って!そんなに急がないで下さい!」
「すみません、でも俺も早く二人っきりになりたいんですよ。それとも真紀子は同じ気持ちじゃないんですか?」
「ズルいです、そんな言い方して。同じに決まってるじゃないですか!」
「良かった」
その後少しスピードは落としたものの東雲先生の歩みが止まる事はない。
繋がれた手を見てから、視線を上に向けると普段と違う眼鏡をかけた東雲先生の顔が真っ直ぐ前を向いているのが見える。
この人が私の恋人――。
こんな素敵な人と私なんかが恋人だなんて信じられない。
想いが通じ合ってから、泊まる泊まらないの話や先生からの過度のスキンシップがあって落ち着かなかったけど、こうやってじっくり東雲先生の顔を見ていると段々と実感してきて、むず痒いような照れ臭いような気分になってなんだがニヤニヤしてしまう。
そんな私の挙動不審な気配を感じたのか、東雲先生は私の方を見ると蕩けるような甘い顔を向けてくれた。
その表情にドギマギしつつも遠慮がちに私も笑みを浮かべると東雲先生は「可愛い」と囁いて私の唇に掠めるようにキスを落とした。
もの凄~く恥ずかしかったけど、東雲先生が嬉しそうな顔をするから私も嬉しくなって俯きながらもほんの少しだけ体を寄せてみた。
先生の体温を感じながら、ゆっくり私達は先生の家へと向かって歩いていく。
そんな幸せ過ぎて頭に花が咲いていた私は完全に忘れてしまっていた。
まだ問題が解決してない事を。
東雲先生が『私』を使うのは仕事の時が主です。
『俺』を使うのは素が出てる時です。




