第46話
2話連続投稿です。
「なんで、東雲先生が……」
汗だくで髪もボサボサのまま、はあはあ息を切らしながら立っている姿は今までのスマートな東雲先生からは想像もできない様子であった。
「はぁ、はぁ、真紀子さん、あなた…」
「まずは座ったらどうですか?」
そう言って響子先生は席を立つと、いつの間に用意したのか、お水を東雲先生の前にそっと差し出した。
「っ!すいません、ちょっと失礼します」
よほど喉が乾いていたのか、東雲先生は立ったまま差し出された水をゴクゴクと飲み干して、勧められるまま響子先生が座っていた席(つまり私の真正面)に腰を下ろした。
「少しは落ち着きました?」
「え、ええ、あの、なんで響子先生がここに?」
「ふふ、詳しい事は仙道さんに聞いて下さい。仙道さん、私一旦帰りますね。また連絡してね、本当に今日からウチに泊まるならまた迎えにきますから」
「えっ!泊まりますよ、置いてかないで下さい!」
「駄目よ、あなた達はお互い言葉が少な過ぎるわ。今日はちゃんと話し合いなさい。じゃあね」
残された方の気持ちも考えず、言いたい事だけ言って響子先生は颯爽と帰ってしまった。
「…………」
「…………」
二人っきりで残され動揺する私とは反対に東雲先生は何かを探るような目で黙ったままじっとこちらを見つめてくる。
「「あのっ、」」
「あっ!お先にとうぞ」
「いえ、真紀子さんからどうぞ」
「いえホントに大したことじゃないので東雲先生からっ、」
「…わかりました、では、真紀子さん」
「は、はい」
同時に話かけてしまった私達だけども私はそれを東雲先生に譲り、今から何を言われるのかドキドキして待っていると、
「真紀子さん、KENさんはどこに?」
「はっ?KENさん?」
まさかKENさんを探しに来てたのか~!
恥ずかしい!
勝手に東雲先生は私を心配して来てくれたとか思っちゃってました!
そうだよね、大体私がここにいるなんて知らないはずだし、そもそもこんな汗だくで走ってくるはずもないよね。
東雲先生に気づかれないようにため息をこぼすと、気を取り直して正面に顔を向けた。
「KENさんは仕事があるとかで帰りましたよ」
「……くそっ、逃げたな」
東雲先生?
KENさんに何の用があったのか知らないが、響子先生には二人で話し合えって言われたけど、この調子じゃ東雲先生は私に用はなさそうだな。でも、できれば梨谷先生の事をちゃんと聞きたいな、最近はこんな風に二人っきりで話せる事なんてあまりなかったし。
「しの、「KENさんと付き合う気ですか?」…は?」
突然何を言うのかと思ったら、KENさんと付き合う?どこからそんな話が出たんです?
「えっと、付き合いませんよ」。
「でも、昨夜泊まったんですよね?」
なんで知ってるの?
はっ、まさかKENさんが?そういえば響子先生も東雲先生が来たとき驚いてなかったな、ということは二人で共謀して…、
「それなら、なんでこんな写真が撮れるんですか?」
「写真?」
見せられたスマホの画面には、なんとKENさんのベッドで寝ている私の横でピースサインしながら自撮りしているKENさんの姿が写っていた。
「どうゆう事か説明していただけますか?私からの着信に気づかない程何に熱中していたんですか?」
東雲先生は怖い顔をして画面をこちらに向けたまま問い詰めてくる。
別にやましい事をしてたわけじゃないから話せばわかってくれると思うんだけど、そうすると昨日の空き巣の事を話さなければならなくなる。
「私がどれだけ心配したと思ってるんですか。いつの間にか貴女はいなくなってるし、あんな時間に一人で帰してしまい気になって何度も電話しても全く連絡もつかない。なのに貴女は呑気にKENさんの家で寝てたんですか」
さすがにその言い草に腹が立った私は声を上げて反論した。
「東雲先生だって、梨谷先生と一緒だったんでしょ!?」
「っ、それは申し訳ないと思いますが、でも連絡ぐらいするべきでしょう!」
梨谷先生と一緒だったのは否定しないんだ。
「…メールしようと思ったけどできなかったんです!東雲先生は私を置いて行っちゃうし!帰ったら部屋の中に知らない人がいるし!メールどころじゃなかったのに…、そんな言い方…、KENさんは色々助けてくれた、だけ、なのに…、」
ヤバい、泣きそう。
これ以上話していたら間違いなく泣いてしまう。
「すいません、今日は帰ります!」
こんな所でみっともなく泣いてしまうのが耐えきれなくて、私は帰ろうと勢いよく席を立った。
「待って!!」
なぜか私の手を掴んで引き留める東雲先生の方が泣きそうな顔をしていた。
「待ってください、今なんて言いました?部屋に知らない人がいた?昨夜貴女に何があったんですか!?」
しまった、これは全部言わなきゃ納得しないだろうな。
でも私の涙腺ももう決壊寸前なんです。
「……場所を、変えませんか?」
さすがにお店の中で号泣しながら話すのは避けたいと、しゃくりあげそうなのをなんとか我慢して店を出る事にした。




