第44話
「本当にありがとうございました。KENさんが居てくれたおかげでとても心強かったです」
「僕の方こそ、真紀子ちゃんの助けになれて良かったよ」
あれから、KENさんについて来てもらいアパートに到着すると既にパトカーと警察の人が数名待っていた。
恐る恐る部屋の中を確認してみると、クローゼットやタンスの引き出しが開けっ放しになっていて、部屋中を土足で歩き回った足跡があちこちに残っていて、その生々しさに思わず体がブルッと震えてしまった。
部屋の中には現金を置いてないし、高価な貴金属なんかも持ってない。
隠しておいた通帳もあった。
玄関先に落ちていたバッグの中の財布も手をつけられた形跡はなかった。
ただ、下着類だけがごっそり無くなっていた。
「真紀子ちゃん大丈夫?」
自分が身につけていた下着を知らない男が持ってると思うと、あまりの気持ち悪さに吐きたくなってくる。
私の青くなった顔を見て、KENさんは心配そうに声をかけてくれたが、私は頷く事さえできなかった。
その後被害届を出すと、現場検証を終えた警察の人たちは引き上げて行った。
私達はそれをただ見ていたが、KENさんはおもむろに私の肩に手かけて、
「さて、いつまでもここにいてもしょうがないし、行こうか」
と、促してきたが、
「えっ?」
行くってどこに?
疑問が顔に出ていたのかKENさんは苦笑いを浮かべながら、
「まさかこの部屋に残るって言うの?」
と言ってくるから、私はブンブンと顔を横に振った。
確かにもうこの部屋にひとりで居るなんて絶対に無理。
だけど引っ越そうにも、それまでの間泊まる場所が必要だ。
バッグからスマホを取りだし、誰かお願いできそうな人がいるか調べようとしたら、さっとスマホを取り上げられてしまった。
「KENさん?」
「とりあえず今晩は僕ん家おいで?」
「えっ!?」
いやいや、さすがにそれは駄目でしょう。
今日は迷惑かけっぱなしのKENさんにこれ以上世話になるわけにはいかないという思いと、以前彼の部屋に連れ込まれそうになった記憶から首を縦に振る訳にはいかない。
「すいません、それはちょっと…、」
「でも、こんな時間に頼める人いるの?」
「うっ、それは、」
確かに今からなら朝の方が近い時間ではある。
そもそも昔からの友人は皆地元で遠いし、近くの友人は利香先生か響子先生くらいだけど多分二人とも今夜は一人じゃない気がする。
「う~ん、あっ!ビジネスホテルでも…、」
「それこそ、こんな時間に?」
「うっ!」
「…ねえ真紀子ちゃん、お願いだから僕の言うこと聞いて?さすがの僕でもこんな時に手を出そうとかそんな恥知らずな事しないよ。それに、なにより今夜真紀子ちゃんを一人にしたくないんだよ」
KENさんの目は真剣そのもので私の身を案じる色しか見えない。
この事を知られたら、早瀬先生や東雲先生にまた怒られてしまうかもしれないが、今の私は一人になりたくないのも本当で、今晩だけだからと言い訳しながら私は差し出されたKENさんの手をとった。
「ありがとね」
「なんでKENさんがお礼を言うんですか、逆ですよ?」
「それもそうだね、ハハハ」
「フフ、ありがとうございます。それと、お世話になります」
数時間前にあんな怖い目に会ったというのに今は普通に笑えてる事が不思議だったが、それもKENさんのおかげだと思ったから心の中でもう一度お礼を言った。
でも今私の手を握っているのがあの人だったなら、と一瞬思ってしまったのは、抱き締められた温もりをまだ覚えているからなのかもしれない。




