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第43話(賢太郎視点)

今晩は特に暇だな。

まあ、客がいないのはいつもの事か、この店はほとんど趣味みたいなもんだしな。


有り難いことに僕はそっちの才能に秀でたようで、現在は株式投資で生計を立てているのだが、一日中パソコンの前で数字ばかりを見ててもつまらない。

人恋しくなった僕は元々酒好きって事もあってbarを始めた訳だけど、たまに来る客の噂話が投資のヒントをくれる事もあって結果的には助かっている部分もある。


だからと言ってあんまり繁盛し過ぎて、可愛い弟達の足が遠退いても寂しいしな。


だからいいのさ、こんな日があっても。




カチャッ。


噂をすればなんとやらだ、誰か来たようだ。


「いらっしゃいませ」

「こんばんは、」


真紀子ちゃん?


「真紀子ちゃん!久しぶり…、どうしたの!?」

「KENさ~ん…、」


なんでこんな時間にそんな泣きそうな顔で一人で居るんだ!

アイツらは!涼正は何やってんだよ!


「とりあえずこっち来て座りなさい。大丈夫、他に客はいないから」


経験上こんな状態の女性に無理して理由を聞いてもすぐには話さない事ぐらいわかっている。

だからまずは落ち着かせる事だけ考えなきゃいけない。


「なにか飲むかい?この前のカクテルでいいかな」

「何ヵ月も前なのに、覚えてるんですか?」

「もちろん、それが仕事だしね」


前回と同じモスコミュールを出すと、初めは驚いた顔を見せたがグラスに口をつけると嬉しそうに笑みをこぼした。

笑顔が見れた事に安堵したが、彼女に何があったのか気になってしょうがない。


真紀子ちゃんの事はかなり気に入ってるし、涼正の想い人じゃなければ本気で口説きたいくらいの女の子だ。

実際、一度家に連れ込もうとして断られてはいるが、涼正の事がなければ無理矢理にでも連れて行ったかもしれない。


そんな子が泣きそうな顔で僕の店まで来てくれたんだ、理由はわからないが少なくとも僕を頼りにしてくれたんだと思うと年甲斐もなく胸が跳ねてしまう。


「あっ!KENさんすいません、私お金持ってなかった…、どうしよう」


突然グラスをから口を離すと、飲みかけのモスコを見ながら困ったように謝ってくる。


「お金なんて気にしなくて良いんだよ」

「でも…、」


きっと根っから真面目なんだろうな、気にしなくて良いって言ってるんだから素直に受け取っておけば良いのに。

他の女の子だったら『ありがとうございますー!』とか言って終わりなのに、こういう所が僕も涼正も気に入ってる所のひとつなのかもしれない。


ただ、それよりもこっちの方が気になるよ。

お金を持ってない?君に何があったの!

見たところ怪我してたり乱暴された形跡はなさそうだけど、話を聞くまではなんとも言えない。


「本当に気にしないで、どうしてもって言うなら次に来てくれた時で良いから」

「……はい、ありがとうございます」

「…………」

「…………聞かないんですか?」

「真紀子ちゃんが話したくなるまで聞かないよ」


そうだ、どんなに焦れても彼女から話すまで待たなきゃいけない。


「…………KENさん、私お家に帰れないんです、」

「はっ?家に帰れないってどういう事!?」

「さっき帰宅したら知らない人がいて、私のタンスを……、」


パリン!


何だって!?

何でそんな事早く言わないんだ!

いや、それが本当なら空き巣と遭遇したという事だ。

下手したら真紀子ちゃんはその野郎に……!

……本当に無事で良かった。


「怖かったね」


そう言って、拭いていたグラス割ってしまった音に反応して俯いていた顔を上げた彼女の手を握りしめる。


今まで我慢してたんだろう、真紀子ちゃんはボロボロと涙をこぼし始めた。


「こわっ、怖かった、ヒクッ、怖かったんです」

「ウン、良かった、真紀子ちゃんが無事で本当に良かったよ」

「カバンもっ、落としちゃって、スマホもっ、ない、しっ、どうしたら、いいかっ、わからなく、て、」

「ウン、ありがとう、僕の事を思い出してくれて」

「?」

「真紀子ちゃんがひとりで泣きながら途方に暮れてたと思うと辛いんだよ」

「KENしゃ~ん!」


本当は抱き締めてあげたいけど、怖い思いをした彼女にはそれも嫌な記憶に繋がるといけないから頭を撫でるだけにとどめよう。


このままずっと頭を撫でていたいけど、これからの事を考えるとそういう訳にもいかない。

真紀子ちゃんが少し落ち着いてきたのを確認すると、


「真紀子ちゃんごめんね、怖いかもしれないけど一度君のアパートに行こうか。もちろん僕も着いてくから」


ビクッ!


うん、怖いよね。

でもそのままにしておく訳にはいかないし、警察にも通報しなくちゃいけない。


「今から警察に電話するから、お巡りさんも一緒に行ってもらお?そうすれば、怖くないよね」

「……はい、すいません。何から何まで、」

「いいんだよ、むしろ僕としては頼ってもらった方が嬉しいんだからね。じゃあちょっと待ってて、電話するから」



「……はい、ええ僕は知人です。…はい、今から本人とアパートに向かいます。はい、はい、わかりました、お願いします」


「KENさん、本当に一緒に来てくれるんですか?」


警察との電話を切ると、不安そうにこちらを見ていた真紀子ちゃんが申し訳なさそうに言ってくる。


「当たり前。真紀子ちゃんをひとりで帰す訳ないでしょうが!」

「は、はい!すみません」

「僕の方こそごめんね、大きな声を出したりして。でも心配なのは本当だから」

「はい…、ありがとうございます」

「うん、じゃあ行こうか」

「はい」


店に鍵をかけて、彼女と二人で歩き出す。

しっかりとした足取りで案内してくれる彼女の横顔を見ながら、もうひとつの気がかりについて聞いてみる。


「ねえ真紀子ちゃん、涼正とはどうなったの?」


蓮二が言うには涼正が謝罪をしてなんとか仲直りをしたみたいだけど、こんな時にアイツを頼らないって事はどういう訳だ?

スマホがないから連絡先がわからないっていうのもあるだろうけど、どうも気になるな。


「……東雲先生とは別にどうもなってません」

「? 今から涼正に電話しても良い?」


なんか様子が変だな。

僕でも電話番号くらいはわかるし、アイツも真紀子ちゃんがこんな状況なら助けてやりたいと思うはずだ。

なのに真紀子ちゃんはブンブンと顔を横に振ってるし。


「東雲先生は、今…、梨谷先生といますから……」


梨谷先生?…………綾香の事か!?

あいつまた涼正んとこに来てるのか!


くそっ、タイミングの悪い。

最近は顔を見せないって思ってたが、また変な男にひっかかったりでもしたのか?

綾香は昔から涼正に依存してたからな、涼正の方も可愛がっていたし頼られればほっとけないだろう。


だが真紀子ちゃんにとってはそんな事は関係ないし、自分より綾香の方が大事なんだって勘違いするわな。


あの馬鹿、肝心な時に好きな子をひとりで泣かせやがって!


「真紀子ちゃん変な事言ってごめんね?大丈夫、僕がついてるからね」


いつまでもそんな事やってるなら、本気出して僕がもらうよ?


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