第39話
「合コン?」
「私セッティングするんで行きましょ~!」
「いきなりどうしたの?」
「いきなりじゃないですよ~、響子先生も仙道さんも枯れ枯れでしょ、駄目ですよ!今のうちに彼氏ゲットしないと年取ってからじゃ誰にも相手にされませんよ!」
「枯れ枯れ…、」
「年取ってからじゃ相手にされない……、」
いつもの(といっても2回目の)女子会で突然の合コンのお誘い。発案者はもちろん利香先生で、軽く毒を吐きながら誘ってくるものだから私はもとより特に三十路の響子先生にはダメージが大きかったようだ。
「相手は心配しないで下さいね、アラサーの優良物件を用意しときますから!
」
「不動産屋じゃないんだから…、それにまだ行くとはいってないわよ。」
「な~に言ってるんですか!椅子に背中をつけたまま恋人が出来るのは一握りの美人だけですよっ、響子先生程度の美人は前傾姿勢で行かなくちゃ!!」
凄い理論を展開する利香先生の迫力に響子先生も思わず頷いてしまっている。そして次は貴女よとばかりに利香先生がこちらに顔を向けるもんだから、ビクッと肩が上がってしまった。
「あ、あの、でも私合コンとかした事ないですし…、今別に彼氏が欲しい訳じゃないですし………ひえっ!」
生まれて初めての壁ドンがまさか利香先生になるとは……、でもさっきまでテーブルを挟んで座ってましたよね、いつの間にこっちに移動したんですか。
あまり気が乗らなかったので、なんとか断ろうとしていると利香先生は壁ドンしながらとんでもない事
を言い出した。
「仙道さん、東雲先生よりずっと良い男を見つけましょ!」
「はっ!?」
「大体、仙道さんを振ってあの女を選んだ時点でもう東雲先生の株は大暴落なんですよ!」
「へっ!?私を振って?え?え?どういう事!?」
「辛かったですね、もう隠さなくても大丈夫ですよ。みんなわかってますから。」
なんで私が東雲先生に振られた事になってるの?仲直りはしたけど告白もしてないのに振られようがないと思うんだけと。しかも振られるもなにも、梨谷先生がいると思うと保健室に行く気にならなくて、色々訊きたい事はあるけど結局あれから東雲先生と会ってもない。
そもそもそんな話がどこから出てきたの?
私が東雲先生を好きだった事は早瀬先生くらいしか知らないはずだけど、はっ!まさか、早瀬先生が?そうだあの人は前科持ちだった!
「早瀬先生から聞いたんですか!?」
「えっ?いえ、あの女が言いふらしてたんです、事務の人が東雲先生に言い寄ってるって、何度も断ってるのにあまりにもしつこいから自分も彼も困ってるって。」
「…………。」
想像以上に非道い嘘話に絶句してしまう。
「でもそれは彼女が勝手に言ってるだけでしょ?私もその話は聞いたけど、東雲先生や早瀬先生の前では言わないみたいよ。仙道さん黙っててごめんなさい、そんな話嘘だって信じてたからあえて嫌な思いする事ないと思って言わなかったの。」
響子先生も聞いてたんだ。
「わ、私だって全部信じてる訳じゃないですよ!でもなんでそんな嘘つくのか……、」
響子先生に睨まれて利香先生は最初の勢いはどこへやら段々と尻窄みになってしまう。
確かに何も知らない人が聞いたら信じてしまうだろう。
「あ、あの、ごめんなさい、あの女の言うことなんか信じて。あれだけ文句言ってたのに私、最低ですね…、」
「いえ……、私しつこく迫ったりしてないですし、振られてもないです。本当です、信じてもらえますか?」
「もちろんです!仙道さん本当にごめんなさい。」
良かった、一人でも信じてる人が増えて。最近は利香先生と親しくさせてもらってるのに変な誤解されたままはやっぱり嫌だし。
「信じてもらえて嬉しいです、ありがとうございます。」
「でも、なんでそんな嘘吐いてるのかしらね。」
「確かにそうですよね、仙道さんあの女に何かしました?」
した事といえばキスの現場を見てしまったけど、それだけでそんな事する?それとも、
「牽制のつもりかもね。」
同じ事を響子先生も思ったようだ。
「牽制!?どこまで性根が腐ってるんですかあの女!それって東雲先生を盗られないためですよね、そもそも仙道さんは東雲先生とどんな関係なんですか?」
「あら私もそれは聞きたいわね。」
「うっ、」
まずい、これは言わなきゃいけない流れだ。だけど関係と言われても東雲先生の事を何も知らない事に気づいてから私は彼の事が好きなのかそうでないのかよくわからなくなった今、どう説明すればいいのかわからない。
「……すみません、私も自分の気持ちに自信が持てなくて、どんな関係と聞かれたら無関係だとしか言えません。」
東雲先生がどう思っているのかわからない以上、そう答えるしかない。
「…やっぱり合コンやりましょ!」
「なんでそうなるんですか!?」
この流れでなんでまた合コンの話に戻るの?
私のせいで暗くなってしまった空気を変えるように明るく言ってくれるのは良いけど、なんで合コン?
「そうね、私もそれが良いと思うわ。」
「響子先生!?」
「ほら決まり!急いで手配しなきゃ、私お先に失礼しますね!」
そう言って利香先生は飲み代を置いて帰ってしまった。
その場には茫然と利香先生の帰って行った方向を見つめる私とその横で何かを企んでいる顔の響子先生が残されたのだった。




