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第37話

「健康診断、です、か?」

「ええ、生徒もあらかた終わって今は職員が順に行ってるの。仙道さんまだでしょ?私は済ませたから貴女も暇みつけて行ったら?」


あの女子会以来、響子先生とよく話すようになり今も食堂でランチ中である。


しかし健康診断か、行きたくないけど行かなきゃいけないよね。ちょっと響子先生、なんでニヤニヤしてこっちを見てるんですか。


「…覗かないで下さいよ。」

「ふふ、そんな事するわけないじゃない。ちゃんと妄想補完するから心配しないで。」


私は貴女の頭の中が心配です。


「私は利香先生と行ったんだけどね、凄かったわよ。」

「な、何がですか?」

「あれをキャットファイトって言うのね……、」


お~い、遠い目をしないで下さい、保健室で何があったんですか。利香先生が凄かったって、もしかすると「梨谷先生と?」

何となく予想ついたので聞いてみると、響子先生は頷きながら詳細を教えてくれた。


たまたま授業のなかった二人は一緒に健康診断のため保健室へ行った所、東雲先生の他に当たり前だけど養護教諭の梨谷先生がいた。健康診断の間は二人とも大人しくしていたのだが、終わってさあ帰ろうという時に、座って書類を書く東雲先生の太股に手を置き頬が付くくらい顔を近付けてコソコソ話す梨谷先生を見た利香先生は『人前でイチャイチャしないでくれますか!』と文句を言い、『あらごめんなさい、いつも二人っきりだから癖が出ちゃったのね。』と返されると、『校内で変なことしないで下さい!』『変な事って何?貴女こそなに想像してるのよ?いやらしいわね。』『なんですって!!』そこから、掴みかかりそうな利香先生を東雲先生と響子先生が止めに入ってなんとか乱闘事件は回避できたらしい。


ただでさえ行きづらいのに、そんな話聞かせないで欲しかった。

しかも話を聞いた感じでは梨谷先生結構気が強そうだし、はあ。


「東雲先生もベタついてくる梨谷先生に何も言わないし、やっぱり付き合ってるのかしらね。でも、なんか不自然なのよね。」

「不自然?」

「イチャついてるわりに東雲先生の顔が固いような気がするの。貴女と抱き合ってた時の方がよっぽどニヤけてたわ。」

「!」


だから抱き合ってないって!


「私ずっと観察してたからわかるのよ、あの二人には何かあるわ!だから仙道さん頑張って、悪役令嬢に負けないでね!」

「頑張るもなにも私は……、」

「ふっふっふっ、すれ違いはテンプレよね、うん。」


本性を隠さなくなった響子先生は好きですけど、やっぱり意味がわかりません、うん。







コンコンコン。


今日は返事がありますように。「はいどうぞ。」よかった返事があって。あれからノックに返事がない時は絶対開けないを家訓にしたからね。


「失礼します。健康診断をお願いしたいんですがお時間大丈夫『ガタン!』ですか?」

「~~っ!!」


一度大きく息を吸って、保健室のドアを開けると同時に用件を告げたのだが、言い終わる前に何かが倒れるような大きな音と膝を押さえながら痛みをこらえる東雲先生の姿があった。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。すいません。」


室内を見渡してみるがベッドも全部空いてるし、どうやら梨谷先生はいないみたいだ、良かった。


「あの、健康診断を…。」

「はははい!健康診断ですね、はい、やりましょう!」


東雲先生?

実は緊張してます?あの時以来ですもんね、まともに顔合わせるの。私の方は意外と落ち着いてるな、時間が開き過ぎたのも逆に良かったのかも。


「あれ?鍵はかけないんですか?前はかけましたよね。」

「あっ、鍵はちょっと……、すみません、衝立でお願いします。」

「別に構いませんけど…。」

「ありがとうございます、今用意しますね、お待ちください。」


そう言って東雲先生は後ろを向いてしまった。よく考えれば衝立でも事足りたんだ、じゃあ前回はなんで鍵かけたのかな?


「痛っ!」


東雲先生の声で顔を上げると、おそらくファイルを取り出したキャビネットの引き出しを閉める時に指を挟んだみたいで、右手の人差し指を握りながら悶えていた。「ふふっ、ふ、ははは!」こんな先生初めて見るなと思ったら思わず笑ってしまった。


「真紀子さん?」


あっ、まだ名前で呼んでくれるんだ。


「すみません笑ったりして、先生も落ち着いて下さい。」

「うっ、はい。お見苦しいところをお見せしました。」

「指、大丈夫ですか?私は別日でも良いですよ。」

「いえ、…………。」


あの悶え具合から相当痛かったんだろうと判断した私は健康診断の延期を提案しただけなのに、先生は突然黙りこんでしまった。


「先生?どうか…えっ?」


いつまでも喋らない先生に痺れを切らし始めた時、いきなり先生は深く頭を下げた。


「ごめんなさい!」

「はっ?」

「本当に酷い事を言いました。死ぬほど後悔したけど…情けないことに貴女に嫌われたと思ったら会って謝罪する事もできなくて、」

「…………。」

「時間だけが過ぎていってどんどん話しかけにくくなるし、どうしたらいいのかホントにわからなくなって、……貴女から来てくれて嬉しかった。やっと謝る事ができます、本当にごめんなさい。」





「ぷっ、くくくっ、ごめんなさいって、子供みたいっ、」

「……えっと?」

「す、すいません、謝って頂いてる途中で笑ったりして。でも、ごめんなさい、だなんて言うから先生に似合わなくてっ、ふふっ。」

「……やっぱり怒ってます?」

「違います違います!全然怒ってません!私こそごめんなさい、本気で謝罪している相手に失礼でした。」


東雲先生の謝り方が可愛くて、我慢できずにまたもや笑ってしまった。それだけ必死で謝ってくれたと思うと嬉しくて今までグルグル悩んでたのがばかみたいに思えてくる。


「嫌いにもなってません、むしろ嫌われてると思ってたのに。「え?」お互いもっと早く行けば良かったんですね、「ちょっと!」私も一人でぐるぐる悩んで、「待って!!」」

「はい?」

「嫌われてるって、なんでそんな事を、貴女は何も悪くないじゃないですか!」

「あ~~、う~ん、そうなんですけど、突然あんな事言われたのは誤解があったんじゃないかと。」

「誤解?」


自分の口から言いたくないなー、でも言わなきゃ納得しなさそうだし。なんであんな暴言が出てきたのかも知りたいし。


「えっとですね、私が誰とでも寝る女だと思われてるのかな?と推察した次第でして、そんな事ないんですけどそれで軽蔑されたのかと。」


さっきの謝罪からしてそんな事思ってなさそうだけど、これで肯定されたらさすがに立ち直れないとビクビクしていると、先生は頭をかかえてしゃがみこんでしまった。


「せ、先生?」

「~~~~っ!誰か俺を殺してくれ!」

「あ、あの?本当にそんな事したこともないので、誤解しないで下さいね。」

「わかってます!貴女がそんな女だなんて思った事もありません!!」

「じゃあどうしてあんな言葉が。」


よかった、と安堵する反面やっぱりあの時の言葉が気にかかる。

東雲先生は一度上げた顔を再び自分の膝に埋めて、ばつが悪そうに頭をかきむしった。


「…悔しかったんですよ、私はデートを断られたっていうのに蓮二とは飲みに行ったりして。しかも、アイツが電話で貴女は寝てる間に帰ったとか意味深な事を言いやがるし、」


はやせ~!!犯人はお前か!早く告白しろとか言っといて、何波風立てんだっ、告白どころかもう話せなくなるとこだったんだぞ!


「腹が立ってしょうがなかったんですよ。KENさんならともかく蓮二が貴女に手を出す訳ないって普通ならわかるはずなのに、冷静さを失って一人イライラして貴女を傷つけた。本当に最低ですよね。」

「そうですね、セクハラで訴えなくて良かったです。」

「ぐっ!」

「冗談ですよ。謝って頂いてありかとうございました。もうお話しもできないかと思ってましたから良かったです。」

「真紀子さん…、」


叱られたわんこみたいな情けない顔で見上げてくるから、またまた笑ってしまいそうになる。

手を差し出すと、東雲先生はおずおずと手を伸ばしてきた。









ガラッ、「あれ?涼~?」


あと少しで指が触れるというとこで、ドアが開く音とおそらく東雲先生を呼ぶ声が聞こえて先生の手が離れていってしまった。


「誰もいないの~?」


スクッと立ち上がった先生は返事をかえす事なく私を見つめている。何を考えてるのかわからない表情のまま「あの人とはなんでもありませんから。」とボソッと呟いた。えっ?と首を傾げると「貴女にだけは誤解されたくないんです。」大きな体を折り曲げて耳元で囁くと、衝立の向こうに行ってしまった。


私は真っ赤な顔を見せられなくて、東雲先生に呼ばれるまでそこに突っ立っているしかなかった。




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