第35話
「……と、いうわけだ。わかったな?」
「わかりました。」
「本当にわかってるのか。」
「わかってます。入学式の日、保健室で東雲先生とカーテンを締め切ったベッドの上で抱き合いながらキスをしているところを人に見られたのにかかわらず笑顔を向けた彼女は幼馴染兼元カノで、今年から養護教諭として赴任してきた梨谷綾香先生、ですよね。」
「お、おう、そう言われるとインパクトあるよな」
実際に見た方がインパクトありますよ。
「あと付け足すとすると、俺と涼正と綾香、ついでにKENさん、もっと言うとプリンを送ってくる奴もみんな同じ施設出身なんだ。」
施設…。
「理由は色々だが全員親がいない。そんで詳しくは言えねえが涼正は女性不信で綾香は男性不信。だから付き合ってたと言っても傷の舐め合いみたいなもんだ。」
そんな事は当人以外にはわからないと思いますけど。
「あいつらが付き合ってたのも10年以上前の話だし、それから涼正も俺も綾香とは会ってない。だから勘違いすんなよ。」
「勘違いなんてしませんよ。」
「そ、そうか。それならいいんだけどよ。」
「先生も今年は3年の担任なんだから色々忙しいんですよね、早く戻ったらどうですか。」
「う、あ、おう、じゃあ行くけど、本当に勘違いしてねえよな?」
「はい。」
最後まで早瀬先生はしつこく確認してきたが大丈夫です。勘違いなんてしようがありませんよ、あんな場面を見たら私の入る隙間なんてないんですから。
施設にいたとか、女性不信だとか、東雲先生の事何にも知らないのに好きとか言ってた私に比べて、あの人はなんでも知ってて、お互い理解しあってるんだろうな。
早瀬先生だってあんなにも一生懸命言い訳して、まるで自分のキスシーンを彼女(いや彼氏か)に見られた人みたいだったし。
彼らには私の計り知れない過去と簡単に立ち入れない絆があるんだろう。
新学期が始まって一月ほど経った頃には学校内で東雲先生と梨谷先生が付き合っているという噂が広まっていた。




