第33話
危うくKENさんに自宅へ連れ込まれるのを回避した後、二人して買い物をしてない事に気付いた私達は一緒にスーパーへ舞い戻り、「新婚さんみたいだね。」なんて戯れ言を無視しながら会計を終えると、KENさんとはそこで別れた。
別れ際にKENさんは「また泣かされたら僕の所においで、僕が啼かせてあげるからね。」と、ブレない姿勢を見せてくれた。
KENさんの本意はわからないままだけど、きっと彼なりに私の背を押してくれたんだ、と勝手に判断した私は次に東雲先生に会った時、好きだと言おうと決意した。
心を決めてしまうと不思議なもので、顔を見るのも怖かったのに今では早く会いたくてしかたがなかった。しかも、思わずスマホの取りだし電話してしまいそうになった時は流石に焦ってしまった。
春休みも終わり、結局東雲先生に会うことなく今日の入学式を迎えた。
入学式と言っても、私には関係ないといつもの事務室で仕事を始めようと準備をしていると、珍しく嫌味教頭がやって来て入学式に出席するよう言ってきた。なんと、職員紹介で末席ながら壇上で一言挨拶しなければならないらしい。
早く言っといてよ!とは言えず、渋々挨拶の言葉を考えながら体育館に向かった。
職員席の隅っこにコソっと座ると早速東雲先生の姿を探していると、同じ列の5席離れた椅子に座っているのが見えた。当たり前だが白衣を着ていない先生は新鮮で、ダークグレイのスーツは童顔に眼鏡との絶妙なギャップでトキメキが止まらない。
生憎、同じ列にいるためがっつり観察する事もできず、他の先生方もいるためたまに司会の先生を見る振りをしながらこっそり盗み見するしかなかった。
つつがなく式も進行されて、とうとう職員紹介が始まってしまった。
他の先生方は慣れているのか、冗談を交えて保護者や生徒達の笑いをとっていた。私はといえば………
、うん、話す程の事はないのでとばします。
さて、入学式も終わり事務室へ戻る前にもう一度東雲先生を見ておこうとキョロキョロしていると、早瀬先生と目があってしまった。
『お久しぶりです』
早瀬先生なら通じるかもと、一か八か口に出さず目力で伝えてみた。
『(おう、ひさしぶりだな)』
わお、多分通じてる!
『私、東雲先生に告白します!』
以前約束した(させられた)事だし、思いきって決意表明をしてみた。
『(マジかよ、頑張れよ!)』→『マジかよ、今は止めとけ!』
『はい!行ってきます!』
『(骨は拾ってやるからな!)』→『バカっ、止めろって言ってるだろ、こら』
『もう、縁起てもないこと言わないで下さい。それじゃ!』
『あ~あ、行っちまったよ、アイツ。なにがあって急にやる気になっちまったんだよ!』
見事に読み間違えた私は、勢いに乗って保健室へ向かってしまった。
あの時、早瀬先生とちゃんと言葉で話していれば、職員紹介の時ちゃんと他の先生を見ていれば、あんな光景を見ないで済んだのかな。
はあ、馬鹿は死んでも治らない、とは私の事です。
早瀬先生のセリフはどちらが本当かわかりますよね?




