第32話
「僕はスペシャルローリングデラックスマンゴー2にしようかな。」
なぜに2。改良版ってこと?あとローリングって何?パフェが回るの?
「あっ、やっぱりイチゴとの逢瀬は大納言と共に~も捨てがたいな。」
もはや意味わかりませんっ、ああでも、イチゴはわかるし大納言も小豆の事か。それがどんな形状で出てくるのかさっぱりだけどね!
「決めた!チョコレートパフェにするよ、真紀子ちゃんは何にする?」
結局それかいっ!さっきまでのトリッキーなメニューは何だったの、ってくらい普通なの選んだな。
「私はブレンドをお願いします。」
「ええ!コーヒーだけ?甘いものは苦手だった?」
「いえ、嫌いじゃないです。」
「だったら、このプリン・アラ・モードとかおいしそうだよ。」
プリン……、あの時のプリン美味しかったなぁ。どうせなら全部食べてから飛び出せば良かった。もう食べられないのか…、早瀬先生に頼めば一個くらい恵んでくれるかな?はぁ、違う。一人で食べてもきっと美味しくない。
「ちょっとちょっと!何泣いてるの!?」
えっ?泣いてる?…ホントだ。
自分では気付いてなかったが泣いてるらしく、目元を触れると濡れていた。
「…話聞くよ。」
「KENさん…。」
休日の今日、空っぽの冷蔵庫を見て買い出しに出かけると同じように買い物に来ていたKENさんにばったり会った私はあれよあれよという間にKENさんオススメのカフェへと連れて来られてしまった。
昼間のKENさんは前髪をおろして黒Tシャツとジーパンというラフな格好をしていて、かなり幼く見える。その為、なかなかのファンシーなカフェにもかかわらずあまり違和感がない。
「別に話す事なんて……、」
「涼正と何かあったんでしょ。」
「………………。」
「……あんなヘタレなんかやめて僕にしない?」
「はあ?」
今さら話してもどうしようもない、と思いつつもKENさんならどうにかしてくれるんじゃないか、っていう甘えた考えを捨てきれず黙っていると、KENさんはおかしなことを言ってきた。
「だから僕と付き合おうって。」
「えっ、いや、でも、」
「…はい、時間切れ!5秒以内に断らなかったので了承したと見なします!じゃ、行こっか。」
「はああ!?ちょ、ちょっと待って!」
KENさんは私の手を掴むと強引にお店を出てしまった。
「け、KENさん!パフェは良いんですか!?」
「プッ、気にするのそこ!?」
「あっ、いや違う、そうだ!どこ行くんですか!?」
「……真紀子ちゃん、押しに弱いって言われない?あいつらが心配するのもわかるわ。」
確かに最近のアレコレで私が押しに弱いのは自覚しつつある、が、しかし!周りの人が強引過ぎる気もするんですけどっ!!
「ま、いいや。パフェはね、もういいの。今からそれよりもっと甘いもの食べるから。」
「? もっと甘いもの?KENさん糖尿病になりますよ、若くないんですから気をつけないと、っ!いだだだだっ!!」
「……優しく食べてあげようって思ってたけど、そんな事言うならKENスペシャルをお見舞いしちゃうよ。」
パフェより甘いものって何かわからないが、KENさんの体を心配してるのに頬っぺたつねるって酷くないですか?それに、KENスペシャルってなんだ、この人ホント、スペシャル好きだな!
手を掴まれたままついて行くと、いつの間にか景色が変わってきた。
「け、KENさん、ここって…、」
さすがにホテル街につれて来らたら、鈍い私でも気付く。足を止めようと体重を後ろにかけるがKENさんはものともせず進んでいく。
「心配しないで、僕んちここ通らなきゃ帰れないんだ。やっぱり初めてはラブホなんて嫌だよね。」
「!!?」
安心したのもつかの間、とんでもない事言い出した!
「いやいやいや、待ってください!」
更に後ろに体重をかけて、掴まれている手を離そうとするがどちらも成功しない。それどころか突然足を止めたKENさんは私の腰に腕を回すと、耳元でささやくように「おとなしくして?気持ち良くしてあげるから。」とか言うし~!
パニックになった私は再び歩きだしたKENさんに必死になって懇願した。
「お願いします、やめて下さい!」
「なんで?僕上手いよ、初めてでも痛くしない自信あるし。」
さっきから初めて初めてって、この人は!
「そういう事は好きな人とするものなんですよ!」
「体から始まる恋ってのも良くない?」
「良くありません!お願い、やめて…、お願いします……、」
「…………真紀子ちゃん、本当に僕じゃダメ?僕なら君を泣かせないし、悲しませる事もしないって誓うよ?」
真剣な顔でそう言ってくるKENさんに流されそうになるが、すぐにあの人の顔が浮かんでくる。
東雲先生じゃなきゃヤダ。手を繋ぐのも、デートするのも、腰を抱かれるのも、飲みに行くのも、プリン食べるのも、キスするのも、それ以上するのも、みんな東雲先生がいい!!
私の様子から何かを悟ったのか、KENさんは腰に回した腕を離すと正面から私の顔を覗きこんでくる。
「そんなにアイツが良いの?」
「君の事なんとも思ってないかもよ?」
KENさんの問いにただ頷くしかできなかった。
「……、あ~あ、あとちょっとだったのに。」
KENさんは苦笑いを浮かべると、頭をかきながらこぼした言葉に思わず「ごめんなさい」と謝ってしまい、「だから人が良過ぎなんだって」と呆れられてしまった。




