第2話
「ねえ、ほんとにここって誰もこないの?」
「大丈夫だって。心配?」
「だって、誰かに見られたら…。」
「僕の事、心配してくれるんだ。
優しいんだね、フフ。 チュッ。」
「ッ!!!」
「あ、あの…「黙って。」」
「ん、ん、、んん!っはぅ!」
おいおいおい。
なにやっちゃっての?って、ナニか、ナニやってんのか!
キスだけなら大目にみるけど(何様!?)、なんだかお嬢さんの 声の感じからして、それ以上してる様な…。
「あんっ!ダメッ、、せ、せんせぇ~。」
先生だとうっ!!
どどど、どーする!?止める!?いや、彼女嫌がってないし。
いやいやいや、教師と生徒なんてキスだって駄目じゃん!
…駄目だよね。
でも、彼らも言っていたではないか。誰も見てないと(聞いてるけどねっ!)。
うん、私は貝になる。いや、猿か(日光の有名なお猿さん達)。とにかく、私は何も聞いてましぇ~ん。
ひとまず、この場から離れ様としたのがいけなかったのか。相当に動揺していたんだろう。
『ガタッ!!』
「「!!!!」」
ごめ~ん。そして、いっだぁ~~い!!
椅子から立とうとした瞬間に、デスクの脚にたいして長くもない私の足が強打して、大きな音を立ててしまった。
左足のすねを痛打し、声も出せず一人悶絶している間に、
お楽しみ中であった二人はいなくなったようで、私は
期せずして学校内でのアハ~ンな状況を阻止する事に成功した。
うん、やっぱり教師と生徒はまずいよね。
一度は貝、いや猿か、になろうとした私だけど、
ほっと息つく。
痛めた左足のすねをひとなでして立ち上がると、
もう一度デスクに座り直し、開いたままのパソコンに顔を向けた。
しかし、さっきの教師は誰だったんだろう。
ここで説明を少々ささて頂くと、実は私、
散々他人の告白やら呼び出しやら内緒の噂話なんかも盗み聞き(決してわざとではない!)していたため、学校内の人間関係など相当に詳しくなってしまってはいるのだが、生徒はおろか教師の顔すらほとんど把握していないのだ。
というのは、この私が仕事している部屋の場所が校舎内の端も端で、ここ何年か活動されていないクラブの部室なんかが立ち並んでいる所の更に奥にある。 事務室と名乗っているのだか、実際はほぼ物置で様々な書類が詰められた段ボールがところ狭しと積み上げられ、作業する我々に無言のプレッシャーをあたえている。
その様な劣悪環境なため、なんとか空気だけでも良くしようと常に窓は全開にしている。10月も半ばの今、今後はどうしようか。寒さを我慢するかマスクをして埃から身を守るか悩む所である。
話は逸れたが、窓は開けていてもそのすぐ外側には手入れされる事もなく延び放題にされている草木が鬱蒼と生い茂っている。そんな場所だから生徒達もこっそり活用しているのだろう。
その為、声は聞こえるのだが姿はこちらからもあちらからも見えないのだ。
だから、美紅嬢も安っちもお嬢様方も淫行教師も一切顔を見たことがない。
生徒達はいいが、淫行教師は把握しておいた方が良い気がする。我が身を守るためにも………、
……なにこの自惚れ発言。恥ずかしっ!
働きだして半年、ほとんどの職員と顔合わせていない私に何があるというのか、いやきっとない。訳あって五月のGW明けからの採用のため歓迎会やらもなく、恐らく大多数の先生方が私の存在すら知らないんだろうな、、。
うん、いらない心配だ。あはは。
ふんっ!寂しくないんだから!
羨ましくなんかないんだからっ!