第26話
「それでですね、丹野先輩ったら生徒会の仕事があるのに一緒に帰ろうとするんですよ~。」
それはだめよね~。
「それでなぜか美紅が怒られちゃったんですっ!美紅悪くないのに!」
あらかわいそうに。
「あの書記の人、美紅が可愛いからっていっつも意地悪ばっかり言うの!」
そうよね、あなたかわいいものね。
「あっ、昨日なんですけど黒川君に怒られちゃったんです~。」
あらあらかわいそうに。
「なんで怒るの~?って聞いたら、美紅が他の男の子と喋ってたからなんだって!」
それはたいへんね。
「サッカー部の堀君と放送部の井ノ上君なんて、どっちが美紅に相応しいかまた喧嘩してたんですよ。美紅ホントに困っちゃう~!」
けんかはだめよね、っていうかこの話まだ続くの?
「まだ続きますよ~。」
えっ!?
「あの二人の喧嘩は卒業するまで続きますよ、きっと。」
あ、ああ、そっちね。びっくりした!美紅嬢も能力者かと思った。
それにしても、よく弁当食べながらこれだけ喋れるな。こっちは貴女のモテモテ自慢で腹一杯です。
しかし、あの時は殊勝な態度で『これ本当に大切な物なんです、ありがとうございます!』なんて頭を下げてたのに、何故かあれから毎日お昼休みの時間に弁当持参でやって来ては自分の話を話しまくって、ホント疲れるわ。
今日で彼女が通い始めて三日目になるけど、偶然にも三日前から東雲先生が来なくなってしまった。美紅嬢が居るのは昼休みだけだし、東雲先生だって仕事がある訳だから(それまで仕事大丈夫だったのかな?)入り浸る方がおかしいんだけど、やっぱり顔が見れないと恋する乙女としては寂しい。顔を合わすのが恥ずかしいとか言ってたくせにいざ来なくなると、もしかしたら嫌いになったのかもとかウジウジ考えて、我ながら自分のネガティブさにウンザリする。
「お姉さん、聞いてます~?」
はっ、いかんいかん。またグルグルしちゃってたわ。
「ごめんね、ぼ~っとしてたわ。何だった?」
「だから、美紅ばっかりじゃなくて、たまにはお姉さんの話も聞きたいなって言ったんです。」
「私の話?」
「そうですよ~、大人なんだからコイバナが沢山あるんじゃないですか~?美紅、友達いないし一人っ子だから他人のコイバナとか聞いた事ないんです~。」
さらっと悲しい事言うんじゃないわよ、この子は。これだけあちこちで思わせ振りな態度とってたら、そりゃあ周りは敵だらけになるよな、本人は気にしてないみたいだけど。そんな事言われちゃうとコイバナの1つや2つ話してあげたいが、如何せん今までに付き合ったのは一人だけだし(楽しい話ではないし)、この前片想いに気付いたばかりの人の事はなんとなく話したくない。
「う~ん、私そういう事に縁がなかったから全然コイバナとかないんだ。ごめんね。」
「え~!それって寂しくないんですか~?」
ほっとけ!みんながみんな貴女みたいに恋愛脳じゃないの。
「なんかつまんな~い。」
うるさいな、なんで貴女を楽しませる為に身を切らなきゃいけないの。
「長く生きてるんですから、一個くらいあるでしょ~?」
しつこいな、それから貴女と10歳も離れてないぞ、長く生きてるって言うな!
あまりにしつこいものだから、美紅嬢の相手をするのが段々面倒くさくなってきた私はふと思った事を深く考えずに聞いてしまった。
「美紅ちゃんこそあの花のヘアピンよっぽど大切なものみたいだけど、誰かに貰ったりしたの?」
「…………。」
えっ、ちょっと、どうしたの?
さっきまであれほど饒舌だったの美紅嬢が突然黙りこくって俯いてしまった。
「グスッ。」
うそ、泣いちゃった?
「美紅ちゃん?ごめんなさい、変な事聞いちゃった?」
「……いいえ、………私帰ります。失礼しました。」
「美紅ちゃん!」
美紅嬢は顔を上げないまま、逃げるように出ていってしまった。
はぁ~、泣かせちゃった。どうしよう。




