第22話
結局三日間入院する事になったが、その間に警察の人が来て話を聞かれ、逮捕されるのかとビクビクしたり(優しそうなおじさんで労ってくれた)、井上さんがお見舞いに来てくれて喜んでいたら、実は理事長だったとカミングアウトされて驚かされたりして過ごした。
「巻き込んでしまって、本当に申し訳なかったね。怪我までさせて、なんと言ったらいいのか。」
「そんなっ、井上さん、あっ理事長のせいじゃないです。頭を上げて下さい。」
退院前日の夕方頃に、井上さんは東雲&早瀬コンビを引き連れてやって来るやいなや頭を下げて謝られたので、私の方が焦ってしまった。
「いや、我々がもっと早く犯人を見つけていれば、君に怖い思いをさせる事はなかったのに、本当にすまない事をした。」
「あ、あの私、結局何があったのか知らないんです。ですから、その…、」
「ああ、確かに君も知る権利があるな。…少し気分の悪くなる話だが良いかい?」
「はい。」
「じゃあ、ちょっと失礼して。」
井上さん、いや理事長は椅子に座られて(先生ズは立ったまま)事件について話して下さった。
普段から事務員として働き、生徒や先生達の本音を聞きたいと学校内を動き回っていた理事長はこの学校に危険ドラッグを使用している生徒がいる、そんな噂を耳に入れたそうだ。
東雲先生と早瀬先生と共に調査を始めた所、確かに危険ドラッグを常用して学校を休んでいる生徒が数人いる事が判明した。なんと生徒の中に売り子がいたのだが、(彼女達は以前乱暴された写真で脅されて売り子をさせられていた為)中々話してくれず黒幕にたどり着くのに時間がかかったのだ。
私が白石に目を付けられたのは、大事なタイピンをどこかに落としたらしいのだが何故かそれを私が持っていると勘違いした白石は取り返そうと機会を伺っていると街中で男と揉めているのを見て、それを利用して私を売り子にさせる事を思い付いたのだ。
早瀬先生に言われた通り、もう少し遅ければ私は男達に乱暴された上、写真を撮られて脅されていたのだろう。あの時吸わされそうになったのは新型の危険ドラッグだったそうで、それらを聞いた時には体の震えが止まらなかった。
あの時間に白石がドラッグパーティーを開いている事を突き止めた先生方は警察と共にあの店に向かうと、店の前でウロウロしている卓也君と会って中に私がいる事を聞き、かなり驚いたそうだ。
店の中にいた人達は全員逮捕されたそうで、中には未成年者も何人かいたそうだ。
主催者の白石は他にも余罪があるらしく、これから厳しく罪に問われていくのだろう。
「こんな学校辞めたくなったかい?」
事件の概要を聞いた後言葉なく俯いていると、理事長はそっと私の手を取るといつもの優しい顔で聞いてきた。
「そんなこと!…、」
「こんな言い方したらいかんな、だがあそこにいると嫌な事を思い出すかもしれん。」
「……。」
「もちろん仕事は紹介する。」
「………このまま勤めさせてもらえませんでしょうか。…怖いことを思い出すかもしれません、でもそれはどこに行っても同じだと思います。私は今の仕事が好きです。ですけど…、理事長は巻き込んだと言われましたが、私が世間知らずなのがいけなかったんです。だからこれ以上迷惑をかけないためにも辞めた方がいいんじゃないかと思っていました。」
「「「………。」」」
「でも、もし皆さんが許して下さるなら、このままこの仕事を続けたいです。」
黙って聞いていてくれた理事長は話し終えた私の顔をじっと見つめると、にっこり笑って「これからも宜しく頼むよ。」と言ってくれた。
「こちらこそ宜しくお願いします。」と言って私が頭を下げていると、頭上から不穏なセリフが聞こえてきた。
「俺がビシバシ鍛えてやるから心配すんな。」
「こらこら、女性なんだから手加減してやるんだぞ。」
鍛えられるのは決定事項ですか。やっぱもう一度考え直そうかな。




