第21話
「俺が言うのもなんだけど、もう泣き止めよ。これ以上近付けないんだから、涙も拭いてやれないじゃん。」
『へっ?』
さっきまでの殊勝な姿から一転、おどけたように言うものだからびっくりして涙も止まってしまった。
「ねえ、また会いに来ても良い?」
『えっ!あっ、うん。』
「ははは!冗談だよ。駄目だよ真紀、さっきも怒られてただろ?真紀は人が良すぎる。」
思わず頷いてしまった後、卓也君の言葉にハッとして早瀬先生の顔を見たが、今日一番の眉間の溝の深さに見なければ良かったと心から後悔した。
「……、なんかこれ以上居ると俺、殺されそうだから、そろそろ帰るわ。」
『?』
「言いたい事言って帰るなんて勝手だと思うけど、その、………………幸せになってくれな。それから、いつも笑っててくれ。」
『卓也君……、』
「じゃあな。」
そう言って卓也君は出ていってしまった。二人では無理だったけれど、彼も幸せになって欲しい。そう思えた事が嬉しかった。
卓也君が出ていった後、「あいつが店ん中にお前が居るって教えてくれたんだぜ。」と言い残して、早瀬先生も追いかけるように病室を出ていった。
『ありがとう。』
そう呟くと、また泣けてきてしまった。ホント、涙腺まで馬鹿になったみたいだ。
スッと横からハンカチが差し出され、その時やっと東雲先生と二人っきりという事実を思い出すと、急に緊張して指一本動かせなくなってしまった。
アレ以来まともに顔を合わせてなかったのもあって、ハンカチの意味も思い付かずひたすら固まっていた私に呆れたのか、そのハンカチで無理矢理目を拭かれた。
「いつまで泣いてるんですか、みっともない。」
久しぶりに聞く声はまるで突き放すような物言いでまた涙が出た。




