第20話
「何考えてんだお前は。いくら知り合いだからって、男にホイホイついていく馬鹿がいるか。ああ、いたなここに、押しに弱いやつだとは思ってたけど、ここまでチョロいとは思わなかったぜ。あのなぁ、警察が踏み込むのがもうちょっと遅かったら、お前あいつら全員に犯られてたんだぞ。そんでその写真で脅されるか、ドラッグ中毒にさせられるとこだったんだぞ!!わかってんのかっ!!!」
『はい…。』
「い~や、わかってねえ。俺言ったよな?一人で首突っ込むなって。」
『だって、白石先生がそんな事してるなんて知らなかったし。』
「言い訳すんなっ!!確かに黒幕が白石だったなんて直前まで俺らも気付かなかったが、それでもあんな店に入る前に気付けよ!!」
『あんな店って言われても、分かんないよ。』
「てめえは一人での外出禁止だ!危なっかし過ぎて見てられねえ、俺が都会での生き方教えてやる!!」
病院の一室で目を覚ました私は、予想以上に口の中が切れていたようで、(痛みで)口がほとんど動かせなくなっていた。そんな私にエスパー早瀬は口答え(声出てないはずだけど?)は許さないとぱかりに、延々と説教を続けてくる。
確かに私が馬鹿だったのは間違いないし、反論の余地がないのは認める。だが、しかし!外出禁止って何!?あんたは親か!あと、都会の生き方って何だ?生き方ぐらい自分で決めるわっ。
一部納得できない事に頬を膨らましていると、ギロッと睨まれた。
「まだ反省してねえみたいだな、おい。」
更に説教が続きそうな気配に辟易していると、それまで一言も発する事なく入口付近でただ立っていた東雲先生が突然ドアを開けた。
「わっ!」
『卓也君!?』
そこには、元恋人の清水卓也君が立っていた。
こんなとこまで来たのかと思わず後退りしかけたが、それを察して卓也君は動きを止めた。
「俺は絶対ここから動かないから頼む、話を聞いてくれ!」
『……。』
少し迷ったけど、先生方もいるし何より卓也君の表情から本気の誠意を感じたので、了承の意味を込めて頷いた。
「ありがとう。先ずは謝らせてくれ、真紀、本当にすまなかった。」
そう言って、卓也君は膝に付くぐらい深く頭を下げた。一年前の記憶とはまるで違う態度に酷く戸惑ってしまう。
「あの頃の俺はどうかしていた、いやそんな言葉で済ませないぐらいの事をした。真紀だけじゃなく、周りの人間にも怖い思いをさせて。」
『……。』
「真紀の事が好きすぎて、他の人間を見て欲しくなかったんだ。俺だけを見て欲しくて…、二人だけの檻に閉じ込めてしまいたかったんだ…。だから、真紀が逃げて行くのがどうしても赦せなくて、全てを攻撃したんだ。」
その時の恐怖を思い出した私は、震える手で固くシーツを握り締める。
「真紀から引き離されて、田舎の親戚の家に預けられた後も何度も会いに行こうとして、その度にじいさんに殴られて、そのうち気づいたんだ。」
『?』
「真紀の笑顔を思い出せない事に愕然とした。好きな子を悲しませてばかりだった自分は相手を幸せにしたいんじゃない、ただ自分が幸せになりたかっただけなんじゃないかと。」
『!』
「それに思い至った時、やっと真紀に心の底から謝りたいと思ったんだ。」
『卓也君…。』
「本当にごめん!!許してくれとは言わない。もう、あんな事はしないと誓う。真紀には幸せになって欲しいんだ。」
卓也君の真摯な謝罪を受けて、私は涙が止まらなかった。私こそ大して好きでもなかったのに簡単に付き合ったりしたから、彼を傷つけてしまったんだ。
『ごめん、ごめんね。』
傷口が痛くて余計涙が出そうだったが、これだけは言わなくちゃいけないと無理して謝罪の言葉を口に出すと、彼は苦笑いしながら、「気にしないで」と言ってくれた。
「最初からわかってたよ、だけど俺が好きならそれで良いと思ってた。始めから間違ってたんだな。真紀に振り向いてもらう努力をしなくちゃいけなかったんだ。」
誰も声を発する事なく、私の嗚咽だけが病室に響いていた。




