第17話
「おい、あいつに何言ったんだよ。」
聞こえません。
「聞けよ。馬鹿みたいに浮かれてたヤツが、一転して全くの無表情で仕事してやがんだ。誰だって何かあったって思うだろ?」
思いませんし、何も知りません。
「知らねえ訳あるかっ、どうせクリスマスの約束を断ったとかだろ?」
分かってるなら聞かないで下さい。
「聞くさ!あいつのあんな顔、付き合いの長い俺でも見たことねえ!」
エスパー具合が半端ない早瀬先生だが、毎度の如く事務室に訪れた途端、文句を垂れ始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
落とし物を職員室へ届ける途中、偶然にも東雲先生に会ってしまった。
断るなら早くしろ、と神様に言われているのでしょうか。だけど、目が合った途端嬉しそうに近付いてくる姿に心臓が高鳴ってしまう。
ふいに思い出すのはかつての恋人の事。初めての告白に舞い上がって、半端な気持ちのまま付き合いだしたせいで彼が何をしたのか。
意を決して、顔をあげる。『あのっ!………』
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あいつも強引だったのは認めるが、たかがデートじゃねえか。」
「…………。」
「全く、なに頑なになってやがる。」
「…………。」
「ちっ、お前なら涼正を救えると思ったんだがな…。まあいいや帰るわ、じゃあな。」
勝手な事ばかり言って!!救うって何さ、勝手に期待して勝手に失望しないでよっ。
でも、一番勝手なのはきっと、私だ。
あの時、『あのっ!クリスマスの日なんですが、』
『はいっ、楽しみですね。』
『うっ!いえ、あの、やっぱり私行けません!』
『はっ?それはその、都合が悪くなったんですか?』
『いえ、そういう訳ではなくて…、その…。』
『………、わかりました。』
『えっ?』
『だから承知しましたって。』
『あ、あの、本当にすみま『では失礼します。』』
『………。』
断っても東雲先生の事だからきっと、何だかんだ説得してしくるんだろう、もしかしたらまた強引に丸め込まれてしまうかも、なんて勝手な期待して、いざあっさりと了承されるとショックを受けるなんて、ホント勝手過ぎるっ。
視線も合わせず、さっさと行ってしまった背中をただ見つめるしかなかった。




