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第13話

「へー、仙道さんって〇×県出身なんだ。大学はどこ行ってたの?」

「いえ、大学は…。」

「あっ、高卒なの?今時珍しいね、なんで?」

「か、家庭の事情で…、あの、ちょっと進学は難しくて。」

「え~?でも、お金がなくても奨学金制度とかあるじゃない。何か他に訳でもあったの?」



……ちょっと、なんなのこの人。


「利香先生、飲み過ぎよ。仙道さんが困ってる。」

「え~、まだ全然飲んでないですよ~!もう!邪魔しないで下さい、仙道さんとお話してるんですから!ね~?」

「……人に迷惑かけないようにね。」


えっ!諦め早くないですか?既に迷惑かかってるんですけど!あ~あ、行っちゃった。


「ホントっ、響子先生ってば説教臭いんだから!だから彼氏できないんですよ、きっと。」


だ~か~ら~、さっきからイチイチ失礼なんだよ!あの時は結構感じ良かったのに。


実はあの日食堂で、この飲み会に誘ってくれたのが、現在隣で四杯目のレモンサワーを注文している英語担当の林川利香先生で、くるんと内側に巻いたボブがお嬢様風なのに気さくな人柄で、男女共に生徒達から人気があるらしい。(なんと本人談。)

先程、申し訳程度に注意して、さっさと去って行ったのは確か美術担当の橋川響子先生で、微妙に名字が似ているとの理由でいつの間にか二人とも名前呼びが定着したそうだ。響子先生は美人の部類に入ると思うが、全体的に地味目なファッションと無表情のせいで学校内では影が薄いらしい。(利香先生談。)


いい加減酔っぱらいの相手も嫌になってきたし、そろそろ帰ろうと逃げる算段をつけていたら、部屋の入り口付近から(ここは個室)ざわざわとどよめきがあがった。


「あっ!東雲先生と早瀬先生っ!」

「えっ?」

「うそ~!?今日も来れないって言ってたのにっ!やった~!!」


あの二人がこういった集まりに参加するのは余程珍しいのか、多くの先生(主に女性)が色めきたつ。気付けば隣にいたはずの利香先生も、女子高生のようにはしゃぎながら、お二人の元に行ってしまった。

イケメン二人はあっという間に囲まれてしまい、部屋の一角がいわゆるハーレムと化してしまった。

学校の先生の様にストレスが溜まる業種の人達の飲み会では我を忘れた行動を取って(暴れる上に破壊活動とか)お店に迷惑かける人が多いって聞いた事があるけど、わが校の先生方は皆さん比較的普通に飲んでいらっしゃったはずだが、一気に騒がしくなった部屋の中で、他所から苦情が来ません様にとそっと手を合わせておいた。


「なに手を合わせてるんですか?」


空いた隣の席にスッと誰かが座る気配がしたので、顔を向けるとそこにはビール片手に話しかけてくる男性がいた。


「いえ、これはその、あの…、」

「ははっ、すみません。急に話しかけて驚かせてしまいましたか?」

「いえ、私こそ挙動不審ですみません。」


おそらくこの中では年長の部類に入るであろう(多分30代後半ぐらい)この男性は物理を担当している白石先生というそうで、開けているのかいないか分からないぐらいの糸目以外は特徴のない顔しており、私も緊張することなく自然とグラスを合わせた。


「びっくりしたでしょう?いつもはこんなんじゃないんですよ。」

「えっ?」

「この食事会はテスト期間が終わると大抵開かれるんです。早瀬先生はたまに参加されますが、東雲先生は毎回不参加なのに今日に限って来られるものだから、こんな騒ぎになってしまいました。お店の人に怒られなければ良いんですが。」


はい、私もそれを祈っていました。

表情が分かりにくいが、おそらく少し困り顔で白石先生は説明してくれた。


「その前にも、林川先生に絡まれてましたよね?」


見ていたなら助けて欲しかったです。


「あの人は明るくて生徒達からも人気があるんですが、少し空気を読めないとこがありまして。お酒を飲むとそれが顕著になるのがちょっと…。」


おお、利香先生の生徒人気は本当でしたか!


「これに懲りないで、また次回も参加してください。一応、僕が幹事をやってますので連絡先を交換してもいいですか?」

「はい、また誘って下さい。」


連絡先を交換すると白石先生は『では、また。』と言って、別の席に移って行った。




そろそろお開きという頃になって、二次会はどうするか訊かれたが丁重にお断りして店を出た。

この居酒屋は駅に近く、通りもまだネオンの明りで照らされており安心して一人歩いていると、


「女性の一人歩きは危険ですよ。狼に食べられても知りませんよ、こんな風に…。」


突然横から伸びてきた手に捕まれ、路地へと引き摺りこまれたと思ったら、背中からすっぽりと抱え込まれていた。

一瞬、痴漢かと思い肩を震わせたが、聞き覚えのあるその声に安心して体の力を抜いたその瞬間、右の耳たぶをかぷっとかじられた。


「んん~~~~~~~っ!!!」

「ほらほら、そんな声出したら余計に止まらなくなっちゃいますよ。ペロッ。」

「あんっ!」


ぜ、ぜ、全部!耳全部舐めた~!!


「イケない人ですね、路上でそんな声出して。」


だから、耳元で囁かないで~!

ちょ、ちょっと!?手っ!手が~っ!!



「おいおい、そこまでにしとけよ。」

「ッ! 早瀬先生~!」


全く気付かなかったが、早瀬先生は最初はおもしろがってたようだが、さすがに見ていられなくなったのか、東雲先生の肩を掴んで止めてくれた。


「邪魔です、帰れ。」

「ダメっ!帰らないで!」

「そんな可愛い顔を他の男に見せてはいけませんよ。」


早瀬先生を引き留めようと、涙目のまま振り向いたら、その顔を東雲先生の大きな手が無理矢理自分の方へと向けさせた。


イッ! く、首がグギッて…。




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