第10話
「それで、いいところを邪魔された訳か。」
「違います。」
「続きシタのか?」
「ち・が・い・ま・す。」
なんで、井上さんのデスク(つまり私の目の前)にあなたが座ってるんですか。
「早瀬先生、何か誤解がある様ですが。」
「東雲とデキてんだろ?」
~~~~っ!!!
このトンチンカン男め!
「デキてませんし、あれからすぐに井上さんと戻りました。それから邪魔です。仕事がデキません。」
「ふ~ん。あいつ、まだ一人で相撲取ってんのか。」
「? 今日の体育、相撲だったんですか?」
「違うし。てか、キャラ違うじゃねぇか。もっとおとなしい感じだったろ?お前」
そのセリフそっくりそのまま返すわ!最初の好感度返せ。
「俺だって一応、人見て素を出してんだ。」
へ~、ってあなたもエスパーですか。
「俺らはある意味人の顔色を見るプロだぜ?特にガキ共の相手するのに、言葉ほど役に立たないもんはないからな。」
ほ~、ちょっと感心。でも普通に私の頭の中と会話しないで、気持ち悪い。
あの時、
『お邪魔したかね』
背後から現れた声の主は井上さんだった。
何故こんな所にいるのか不思議に思ったが、その後の言葉でそんな疑問は頭からすぐ消え去った。
『君達がそういう関係だったとは、知らなかったよ。』
『はい、そうな…『誤解ですっ!』』
こっちを見ないで下さい。視線が痛いです。
おそらく半目で見下ろしているであろう(見えないけど、なんとなく分かる)東雲先生は放っておいて、私は必死で釈明した。
結局、喧嘩の件はうやむやになってしまい、さっきまでの肉食獣の様相がすっかり消えた東雲先生とはあっさりそこで別れた。
多分、井上さんが近付いて来てるのを知っていてからかったんだろうな。
「もうすぐテスト期間じゃないんですか?油なんか売ってていいんですか?」
「俺、関係ないの。」
退屈そうにシャーペンをくるくる回し始めた目の前の男を追い返そうと言ってみるが、簡単に切り返される。そうだこの男体育教師だった。
「まぁ、でも今日は収穫無さそうだし帰るわ。」
収穫?ここはある意味密林みたいだが確か果物の木はなかったぞ。
「ははは、そうじゃねえよ。」
窓の外を見ながら首を傾げていると、同じ様に窓の外に顔を向けながら笑う。だから心読むな。




