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第9話

「誰かお探しですか?」


「? 仙道さん?」

一度肩が上がったきり動かなくなってしまった私を不審に思ったのか、東雲先生は横から覗き込むようにして再度問いかけながら顔を近付けてくる。

顔へと熱が集まり始めた私は、それを冷ますかのように、この人右側が好きなのかな、などとどうでもいい事を頭に思い浮かべる。




はっ!そうだ、忘れてたっ!

「先生!ちょうど良かった。怪我している子が!………きゃっ!!」


「またどこか怪我したんですか!?」


さっきの(おそらく)殴られていた子の事を思い出した私は一歩前に出て振り返り、軽く腰を曲げたままの東雲先生に訴えかけようとしたが、何を勘違いしたのか慌てて私の身体を上から下までチェックした後、私の顔を挟む様に頬に手を当てて覗き込んできた。


「ち、違いますっ、今回は私じゃなくてっ……!」


「今回は?やっぱりこの前も怪我してたんですね。駄目じゃないですか、今からでも…」


「いえいえいえ!それはもう治りましたから。じゃなくて、さっきここで誰か喧嘩してたみたいなんです!」


話を聞けい!


どうも話が噛み合わない中、どんどん近付いてくる先生の綺麗な顔から逃れようと背中を反らしながら、先程見た(というか聞いていただけ)内容を説明していく。


「多分酷い怪我をしてると思うんですが、私が不用意に声をかけてしまって、すぐに行ってしまったんです。」


「なるほど、話はわかりました。」


頬に触れたままだった手を離し、その手をそのまま自分のあごに当てながら目を軽く臥せる仕草もかっこいいっ!じゃなくて。これでもう私のやる事はないかな、と無責任なことを考えながら目が合わない事を良い事に、呑気に先生のキメの細かい肌に嫉妬していたら、不意に固い表情をこちらに向けてきた。


「…まったく。ホントに目が離せませんね。」


ふぅ、と物憂げにため息をこぼす姿は、とてつもない色気を溢れ出している。


えっ?えっ?何その表情。生徒同士の喧嘩の話だったよねっ?そんな顔で心配するなっ、その子(男)がそっちの道に行くぞ?いいのかっ?!


ぅをぉ~いっ!! そげな瞳でこっち見るなや! なんで私から目を離さないっ!! ハッ、もしかして、さっきのセリフは私に向けてる!?


「子供の喧嘩なんて放っておけばいいんですよ。」


はぁ?(多分)怪我した子がいるのに(今いないけど)、子供の喧嘩で済ましちゃうの?それが医者の言うこと?


「ちゃんと一人で帰って行ったんでしょう?話の内容からして、僕のとこ(保健室)に来るとも思えませんしね。まぁ、少々気になる所もありますから、後で報告だけしときますよ。それよりも!本当に不用意もいいとこですよ、そんなタチの悪そうな野郎に話しかけるなんて! 」


タチの悪そうな野郎って…。


「貴女はか弱い女性なんですよ?そんな所に首突っ込んで巻き込まれたらどうするんですか!」


いえ、知らんぷりしようとしました。そもそも終わってたし。


「言い訳しない!」


ひゃいっ!! って、口に出してないのに何で分かるんですか!?


「フフッ、顔に出てますよ。とにかく、僕の目の届かない所で危険な目に合う事は赦しません、いいですね。」


「……先生の目の前なら危険な目に会ってもいいんですか。」


「僕の側で危険な事がある訳ないでしょう。」


あま~~い!!甘すぎるよ、東雲さん。(by S.W)

勘違いしちゃうから、やめて~!


「…今日は逃がしませんよ。」


ヒィィ! 顔だけチワワのくせに、なんで捕食者の目になってるの!?




「お邪魔したかね?」


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