プロローグ
「ごめんなさい。」
うん、今日の卵焼きは中々の出来だ。
「えっ?」
唐揚げもカリカリ具合がいいな、たまにベトベトになる時があるんだよね。何故だろう、やはりちゃんとレシピを作るべきなんだろうな。
「安久君の事は好きだけど、付き合うとかはできません。
ごめんね。」
しかし、私の弁当もいい加減ワンパターンだな。
卵焼き、唐揚げ、焼き魚、大量に作って小分けに冷凍してあるひじきの煮物、きんぴらごぼう、 そしておにぎり2つ。
やはり野菜が少ないな、適当にベーコンで巻いて焼くか。
「他に好きな奴がいるとか?
あっ、丹野先輩?黒川?それとも…」
「っ! みんな素敵だけど、そういうんじゃないよ!!」
「だったら、俺と付きあってもいいじゃん!」
「う~ん、でもお付き合いしたら他の人とおしゃべりできなくなるよね。それじゃつまらないし、みんなも寂しがると思うし。」
「…へっ?」
「だから、ごめんね!!あっ、でもこれからも美紅とおしゃべりしてね? それじゃ!!」
ちーん、合掌。
まだ弁当を食べ終わってもないのに、思わず哀れな少年に背を向けたまま手を合わせてしまった。
ここは、ある私立高校の敷地内の片隅。
教室からは死角になっている事もあって、絶好の告白スポットである。ただし、そんな爽やかな物だけではなく、
人目がないという事で、悪意のある呼び出しや、いかがわしい逢い引き(君達学校で何やってんだ!)なんかもある。
さて、そんな告白の場面で呑気に弁当を食べている私は
この高校に通う女子高生。 という訳ではなく、只のしがない事務員である。