プロローグ
三年前、お兄ちゃんがいなくなった。
飛び抜けて明るくて。
誰よりも優しくて。
そんな、大好きなお兄ちゃんだった。
目撃証言はあった。
それによるとお兄ちゃんは、卒業式の帰り道、交通事故に遭ったらしい。
けれど不思議なことに、現場から遺体は見つからなかった。
結局捜査は打ち切られ、お兄ちゃんは未だに行方不明扱いのままだ。
だけど、私たち家族は心のどこかで確信していた。
それが何故だか分からないけれど。
お兄ちゃんがもう、この世界のどこにもいないんだってことを。
私の前では隠してたけど、パパとママがどれだけ悲しんでいたかを知っている。
おじいちゃんやおばあちゃんだってそうだ。
そして、もちろん私自身も。
だから、私は頑張った。
お兄ちゃんの分も、生きるんだって。
お兄ちゃんの分も、家族皆を幸せにするんだって。
あれから成績はずっと一番だったし、スポーツだってそうだ。
地域の福祉活動や、ボランティア活動にも積極的に参加した。
皆に認めてもらう為に。
お兄ちゃんを認めてもらう為に。
私はお兄ちゃんからいろんなものを貰った。
だからきっと、皆は私を通してお兄ちゃんを見る。
私が精一杯生きていないと、お兄ちゃんに顔向けできない。
だから、私は悔しかった。
自分が殺されたことが、たまらなく悔しかった。
誰に殺されたのかは分からない。
何故殺されたのかも分からない。
思い出そうとしても、頭に霧がかかったように意識が薄らぐ。
ただ、自分が殺されたんだと言う確かな実感と恐怖だけが、心に刻み込まれている。
とにかく、私のたった十三年の人生は終わってしまった。
私の努力は、無駄に終わってしまった。
死んでしまっては意味が無い。
私はまだ何もしてあげられていない。
お兄ちゃんにも。
家族にも。
だから、この真っ白な世界で受諾した神様からの依頼は、まさしく私にとっての救済だった。
誰にも壊させなんてしない。
私が必ず救ってみせる。
私の大切な人たちが生きる世界を。
お兄ちゃんが生まれ、生きた世界を。
これは全てを失った私が、最後に皆にしてあげられる、たった一つの恩返し。
ただの女の子だった私が、世界を救う物語。
ただの女の子だった私が、救われるための物語。




