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 7話 石になった日      (康平視点:3)

本当に、たくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。

こんな康平でも、受け入れていただけてるようで感激です。





 おばさんのおいしい晩ご飯をごちそうになった俺は、リビングのソファーでテレビを見ている振りを装いながら、相変わらず告白の台詞を考えていた。


 時計を見る。午後8時。いつも、これぐらいの時間に自宅へ戻る俺は、ソファーから腰を浮かせた。

“奈恵に告白作戦”スタートだ!今度はゴングの音が聞こえた。


「おばさん、ごちそうさまでした。俺そろそろ帰るけど、帰る前に奈恵の様子を見てってもいいかな?」


「いいわよ~。もし起きてたら、ご飯食べに降りてくるように言っといて。」


 年頃の娘の部屋に、男が行くのを止めないのはどうなんだ?と思いつつ、自分がそれだけ信頼されてると思うと嬉しかった。

 階段をあがってすぐ、右側のドアが奈恵の部屋だ。俺は意を決してノックした。


 …返事が無い。もう1度ノックする。



 

 やっぱり返事が無い。寝てんのかな?ドアに耳をくっつけてみるけど何も聞こえない。おかしい。


 奈恵本人は気づいてないみたいだけど、奈恵は熟睡すると軽くいびきをかく。なぜ知っているかと言うと、小さい頃、俺の両親が遅い日は、起きて待っていられなくて、奈恵の部屋で一緒に眠りに就いていた。布団は別だけど。

 その後、帰宅した母さんが、俺を迎えに来て、「康平、帰って自分の部屋で寝るよ。」と起こしに来る。寝ぼけまなこをこする俺の耳に、いつも奈恵のかわいいいびきが聞こえたもんだ。


 小学校の高学年になり、11時くらいまで起きていられるようになって、奈恵の部屋で寝るなんてことはなくなった。


 一緒に寝なくなって数年経つとは言え、奈恵のいびきがなくなったとは思えない。寝たふりこいてんじゃないのか?


 失礼かとも思いつつ、俺は部屋のドアをゆっくり開けてみた。


「…奈恵?」


 小さな声で、呼びかけてみる。返事はないし、ピクリとも動かない。


「…奈恵、寝てるのか?」


 もう一度声を掛けたけど、奈恵は頭まで布団をかぶったままだ。


 …ますます、たぬきくさい。さっき「腹出して寝て冷えたんじゃないのか?」と奈恵に言ったのは、からかいだけじゃない。奈恵は本当ーーーに寝相が悪い。ベッドで寝てる奈恵が、下に布団を並べて寝てた俺の上に降ってきた、なんてことはよくあった。それでも奈恵は起きなかったけど。  


 う~ん、どうしたものか…。


 狸寝入り確率98%(ほぼ確定)とは言え、万が一ほんとにお腹が痛いんだとしたら、起こすのはかわいそうだよな。でも、もし、俺のせいで傷ついているんだとしたら?このままにしておく方がかわいそうじゃないか?


 ベッドの脇に突っ立ったまま、しばらくどうするか考えていたけど、ふと、奈恵の腹痛が俺のせいじゃなかった場合、えらくこっ恥ずかしいことになるのに気がついた。

 「何、訳わかんないこと言ってんのよ。」なんて言われたら立ち直れない。俺の胃が痛くなる。

 そうだ、とりあえず今日のところは奈恵の狸寝入りにだまされた振りをして、明日の朝仕切り直そう。


 …なんか、ほんっっっっと情けないな、俺。



「…早く治せよ。」


 (明日は頑張るからな。)と心の中で付け足して、奈恵の頭辺りの布団をポンポン、と優しく叩くと俺は部屋を出て行った。決戦は明日だ!!







 朝が来た。希望の朝が。俺を励ますかのように、空も青い!絶好の告白日和だ。


 奈恵がいつも学校に来る時間から、家を出る時間を逆算する。お、そろそろ出たほうがいいな。


 案の定、奈恵の家の前に立って5分くらいすると、奈恵が出てきた。門の前に立つ俺を不思議そうな顔で見つめる。いいな、その顔も。


「おはよ。腹はもう大丈夫か?」

「ああ…、うん。もう大丈夫。」

「そっか。良かったな。」


 いや、全然良くない。奈恵の顔をよく見ると、まぶたが少し腫れているし、目もちょっと赤い。15年、毎日熱い視線で見つめ続けた俺の目はごまかせないぞ。


 大丈夫だ、奈恵。もう、お前を1人で泣かせたりしない!俺は意を決して話しかけた。


「奈恵…、昨日の朝、俺らが騒いでたときの話って聞いた?」


 意を決した割には、おずおずといった感じになってしまったけど、昨日から聞きたかったことをようやく口にできた。


「…その、俺がチョコがどうのって話しをしてたことなんだけど…。」


 ああもう!!もっとシャッキリ喋れよ俺!!

 焦りと緊張で、顔まで赤くなってきた。


「ああ、康平に好きな子ができたって騒いでた、あれ?」


 ん?随分、明るく普通に返されたぞ?もしかして、ほんとに俺の勘違い?奈恵が落ち込んでいた原因は俺じゃないのか?


「やっぱり聞いたのか。で、そのことなんだけど…」


 俺、やっちゃたかも!恥ずかしくて顔が赤くなるけど、自分から振った話題だ。ここまできて後には引けない。


「康平。きっと康平ならうまくいくよ。」

「え?」


 急に奈恵に言われた言葉に、一瞬思考が停止した。え?何?何がうまくいくって?


 “キョトンとした顔”の見本のようになってしまったであろう俺に、奈恵のトドメの一言が降ってきた。

 

「好きな子、できたんでしょ?頑張れ!応援するよ。」



 がーーーーーーーーん…!!!



 よりによって、奈恵に応援されてしまった……

 頑張れって…頑張れって……頑張れって………

 

 石化した俺の肩を奈恵はいきなりバッチーーーン!!と叩いてきた。あ、俺、今、トリップしてた?


「…いってぇ~…」


 ビリビリする肩をさする。意識が戻ったら涙目になってきた。 


「ごめん、康平。私、昨日寝ちゃってたから、英語の訳やってきてないんだよね。

 朝の内にやっておきたいから先に行くね!」


「え、おい、奈恵!?」


 呆然とする俺を残して、奈恵はあっという間に駆けていってしまった。


 ………失恋………したのか?俺?


 再び石化した俺の意識を呼び戻してくれたのは、通りかかったクラスメイトの「何やってんだ、沢村!遅刻すんぞ!!」の声だった。












炎燃え盛る奈恵と対照的に、康平はフリーズしてしまいました…。

次回は、奈恵視点に戻ります。

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